手法は受け継がれる

いつぞや予告した「冲方丁雑賀礼史。 二人の中の隆慶一郎」の始まり、始まり。 敬称は略してまいります。
さて、隆慶一郎という時代小説作家には特有の個性があります。 それは「一人の人の行動をその人が目立つように徹底的に書く」というものです。
もっといえば「一人のためにお話すべてがある」とでも言いましょうか。 徹底ぶりがそのレベルに達してしまっているのです。
隆慶一郎の作品のキャラは基本的に、

  1. 主役
  2. 主役を盛り立てる脇役
  3. 敵役、ライバル役
  4. すりつぶされる雑魚

の四種に分けられます。 これだけなら通常の小説とそんなに違いがなく見えますが、隆慶一郎の凄いというか恐ろしい所は、主役以外はすべて主役を際立たせる為に存在するということです。 ある人物Aを凄まじいキャラにする事にまさに血道をあげるのです。
隆慶一郎はそのためにどうしたか。 それはA以外の人物を際立たせ、それを上回る事でさらにAを際立てるという方法をとるのです。 これはただの「かませ犬」とは少々異なります。
隆慶一郎の場合、脇役や敵役はあわや主役をくいかねないほど面白い出自、存在感をもって現れます。 しかし主役はそれはねのけ、食いつぶすのではなく、包み込むようにして自身の存在感をより一層大きくするのです。 そしてここからが重要なのですが、そうして包み込まれる事によりさらに脇役、敵役の存在感が増すのです。 そしてまたそれを包み込むように主役が存在感を大きくし、そして・・・、という風に摩訶不思議な存在感の増やし合いが行われるのです。
ちなみにすりつぶされる雑魚は、これもその出自や技などをみっちりと書かれますが、それを発揮する場所を与えられないまま、瞬殺されます。 かむ暇さえ与えられません。*1
さておき。
この方法論を積極的に使っている人が私の思い当たる範囲で二人います。 それが「冲方丁雑賀礼史」なのです。
そもそも、双方とも「隆慶一郎」のファンであり*2、そもそも隆慶一郎の手法自体普通の小説の亜系なため、その手法を導入しているのもある意味当然ともいえます。好きな作家の書き方ってのは真似したくなるものですからね。
さて。
雑賀礼史の場合、この手法の最大の難点に見事にはまっています。 それは。
脇役が立ちすぎて主役をくってしまうというものです。
そもそも、脇役に主役をくいかねないほど存在感を与えるわけで、それを主役がさらに立てるわけですから、下手を打てばすぐにでも脇役が主役より人物が立ちまくってしまうのです。
これにより、氏の著作「リアルバウトハイスクール」シリーズは主役以外のキャラがひたすらにたってしまい、*3どんどんと話が膨らんで収拾がつかないという泥沼にはまってしまったのです。*4
しかし、これは悪い事だけではありません。 それによって魅力的なキャラを多数輩出する事に成功し、人気シリーズとなったわけですし、もしかするとそれらを上手くまとめてあげて、最後には主役が大きくたつ可能性もあるのですから。 というわけで「リアルバウトハイスクール」は最後の最後で大化けするかもしれない、と言っておきましょう。
さて、次は冲方丁の場合はどうか。
基本的に隆慶一郎手法を上手く活用していると言えます。
氏の著作「カオス・レギオン」を見ると、主役の周りに上手く主役といってさしつかえないレベルの脇役を配置し、一人の敵役を追いかけていくというのが話でありますが、それがちゃんと主役を軸として存在感をあらわしています。 シリーズ化してからは脇役だったキャラもある方向では主役という形をとっていたり、すりつぶされる雑魚に当たるキャラも、ただすりつぶされるのではなく、きちんとした存在感をあらわしています。 冲方丁はうまく隆慶一郎手法を自分の物としている証拠ですね。
ただ、その冲方丁でも「マルドゥック・スクランブル」では主役であるはずの「バロット」ではなく、脇役である「ウフコック」のほうが人気が出たというか「萌え」られて、著者当人が当惑する事もあったりとまだまだ完成の域には達しているわけではありません。 今後もより精進する事でしょう。
さて、いろいろ書いてきましたが最後に軽くまとめ。、
そもそも、隆慶一郎氏は元々テレビなどのシナリオを手がけていた人であり、老年になって時代小説を書き始めたのですから、物語書きとしてはまだ始まったばかりの冲方、雑賀両方が上手く取り込めないのも当然のことなのです。 そして、両人とも隆慶一郎」になってはいけないのです。 己の書き方というものを見出さなければ、単なる「デッドコピー」でしかないのですから。
そういうわけで、冲方、雑賀ご両人とも今後も切磋琢磨し、長く我々を楽しませてくれるようがんばっていただきたく思います。

*1:鬼麿斬人剣」は特にそれが顕著に出ています。

*2:冲方丁は「SFが読みたい2004年版」の鼎談で「『鬼麿斬人剣』を百回読んだ」と言っていますし、雑賀礼二はその著作の主役に「慶一郎」名づけていたり、隆慶一郎の著作を褒めたりしている。

*3:サムライガール・御剣涼子などはピンで漫画化されましたし。

*4:最近になってやっと終わりの兆しが見えましたが。