感想 成田良悟 『5656!』

 内容を要約すると「人工島の日常」。これが日常だ、と言われるとその荒みっぷりに戦々恐々ですが、そんな荒んだところでも、恋の花咲く時もある。ツンデレ花咲く時もある。つか、麗鳳にツンデレのレッテルがべたりと貼られた時は深夜にもかかわらず激笑してしまい、またぞろ家人の顰蹙を買ってしまいましたよ。もう今の世の中じゃあ「勘違いするな」はツンデレの台詞としてしか受け取られないんだなー。と納得のような諦念のようなものを甘受いたしました。
 で、今回の見所は、「バウワウ!」から連綿と続いてきたワンワンコンビ(違)の微妙に微妙で異様に異様な仲ですか。接近遭遇からギータルリンの煙に巻きたいことは分かる解説とかも挟みながら、二人の運命というか腐れ縁がつとつとと語られた、というのがこの本だったと思います。なんであんなに鉄火場での遭遇率高い人たちなんだろうか、とか思ったけれど、良く考えると狗木は基本鉄火場にしかいかない人だった、という事実が浮かび上がってきて、なるほど納得。
 で、あの二人が良い意味とは言い切れないけれど、ちょっと変化があった、という流れだったわけですが、確かに今回の戌井のヒーロー度の高さはちょっと普通ではなかったです。まさか助けに行くという選択肢を選ぶとはなあ。この辺は捕らえられたのが、ということでやはり葛原の影響もあるのだろうか、それでもヒーローノリな戌井、というのは今までしてなかっただけに新鮮だった。
 葛原といえば、今回も出オチするかと思ったけれど葛原出オチは無かったのなあ。やっぱり便利にインパクトがあると使う方も自重するのだろうか。そのせいで印象薄かったけど。その辺、なかなか痛し痒しだ。
 その中に島の住人やリーレイを慕う本土からの闖入者、はたまた本土の裏稼業が絡んだらこうなった、という感じにコロコロ転がっていくのは、あー、成田良悟だなー、と納得できるお話だったと思います。最後の方のド三一虐殺祭りがその過程を語られないくらいの瞬殺っぷりだったのが楽しかったですね。あの島だと、ちょっとした程度では紙くず同然だ、というパワーバランスが大好きです。
 さておき。これで「人工島」シリーズも終わりかー、好きなシリーズだっただけに、終わるのは物悲しいなー。とうらぶれていたら、あとがき前の最後のページで「Part2」とか書いてありました。うっひょー! そらめでたい! しかも「5656」で続く、と言う事みたい。今回も短編集に見えて結局繋がっちゃって長編と同じように見えたので、次回は普通に短編、だったら、いいけど、まあ来たのを読むだけっすよ! うひょー!