感想 耳目口司 『丘ルトロジック 4』

 内容を要約すると「沈丁花桜最後の事件」。2巻、そして3巻とある種のぬるさがあったこの『丘ルトロジック』ですが、最終巻となった今回はやっちまおうぜお前らよー! ばもさまたーばもさまたーこんぱーにぇろー♪ という言葉を、歌を、作者、耳目口司せんせが言っている、歌っているようなやり過ぎ巻となりました。1巻の無茶さ加減がスゴイ級で好きだったワタクシにとっては最後の福音となりましたよ。1巻のスマートさをマジかなぐり捨てんぞしたその最後の乱痴気騒ぎ、あるいは最悪のテロはやり過ぎ所か、普通にやってはいけないタイプの話だったように思いますが、それでもやってしまったというこの無茶苦茶具合はまさしく丘ルト味であり、まさしく求めていたモノでありまして、ゆえに大興奮して一気に読み終わる形となりました。この巻での終了、というのはちょっと切なかったりしますが、長く続ければ続ける程いいというものではなく、一種テロリズム感、一発勝負感すらあるのがこの話の良い点であるので、こうなったのもむべなるかな、とか。そういうのだから、最後はまさかの香澄に全部持っていかれかけるのを、すんででギリギリ方向修正されてなんとかなる、というアクロバティックな展開というか荒馬乗りしてたりもするんですが、それこそ味ではありました。
 ストーリー面での話はやり過ぎ、だがそれがいい。ギリ整合性も取れているように見える。なんですが、キャラ面ではブレがあったのかなあ、という印象を持っていたりします。なんというか、1巻が奇形的に極まった形をしていたので、それに後の演算で摺り寄せようとしたら無理があったのでは、という勝手な思い込みをしております。
 そういう思い込みが強かった、というか唯一だったりしたのが爆発四散しろで御馴染みの*1咲岡君。結局の所、彼は沈丁花先輩ともっとも近くて最も遠い奴だったわけですが、しかし、彼ってそんな奴でしたっけ? という疑問が湧いたりも。
 その辺は精査してみれば、確かにその通り、近くて遠いだったとも思えるんですよ。咲岡が求めるのも、沈丁花先輩が求めるのも、究極的には同じだったわけで、そのアプローチが全然違った、というのがこの巻で語られた事なわけなはずだったりする可能性が大きいように見える風ですが*2、結局、今回の咲岡君のdisの大意は人為クソ食らえ! なわけですよ。
 今までの積み重ねから言うとこの人為disは咲岡君らしい、景色最高! 自然天然最高! なわけですが、でもそうなると、1巻で江西陀さんを篭絡(語弊、でもないか)した景色描いてくれよ! はどう解釈すればいいのか、って問題が湧いてきます。それ結局人為に頼ってますよねー! というか。
 景色を描くのならいい、という特例枠のような気もしますが、それも人為として極限まで突き詰める世界という他の芸術と同じく、結局感動を紙に塗りつける程度の行為であり、咲岡君としてはdisり対象となんら変わらないはずなのです。でも、彼は1巻では人為としての江西陀さんを描いてくれよ、で篭絡したわけですよ。ここになんとなくズレを感じてしまったり。
 あるいは、それが沈丁花先輩をぶっ倒す為に出た詭弁とも考えられなくは無いんですが、それであんなに自分の領域的、風景男としての視線として語れるかと言うと、やはりそれもおかしいと思える。そんな付け焼刃で沈丁花先輩を打ち倒すなんて出来ないだろう、という風に。
 だから、余計に混乱するんですよね。
 ここは、江西陀さんに言った方向だけがおかしくて、基本はこの人為くそくらえの方向性だったりする、とした方が収まりがいいくらいです。終わり方とか見ると余計にそう感じたりします。しかし、それだとナンデ!? 江西陀さんの時だけナンデ!? なわけでして。咲岡は最後の運命の女神の託宣まで、江西陀さんが自分を好いているという事は知らないわけだし、むしろ沈丁花先輩との対峙の時は相手に恋ってたわけでありまして、なら余計に江西陀さんに対しての方が苛烈になる気がするんですよ。まあ、沈丁花先輩に懸想しているからこそ本心だったんじゃね? という思考も成り立ちますが、それならそういうのじゃなきゃ妥協するのか、と言うと、今までのノリからしたら全くそんなわけがないとも分かるわけで。それに、そんな妥協した言葉で江西陀さんが命がけで咲岡を守る位にぞっこんらびゅんになるのか、というのもまたあります。本気で言ったからこそ、江西陀さんも突き動かされたんだろうし。うーん、一度再読する必要があるな、これは。
 そんなぐるぐるはさておき話変わって江西陀さんの話。
 今回、江西陀さんにも色々ありました。大きいのが一つありますが、そっちよりも咲岡がやっぱりというか当然というか、あれだけ甲斐甲斐しい江西陀さんについて全く異性として見てない事実が最後の最後で明確にされたのが最大トピック。おいぃぃぃぃぃ!!もうツッコムのも面倒くせえよ!!!と新八ツッコミをCV:阪口大輔でやるレベルです。この巻の終盤で、え、もしかして咲岡のくせに大事に思ってる!? ってタイミングがあったってのに、それが異性としてではなく親友として、というので、もうね、バカかと。アホかと。と古い言葉が自然に出るくらいあきれ返って心中で爆笑しました。もうね、どう見ても恋してる江西陀さんの可愛らしさというのが全く分かってなかったとか、もうね。お前、入院してる病室で看病疲れで寝てる女の子って、もう胸キュンレベルのイベントがあったのにそういうの全くとか、どうかしてるとしか言い様が無いぞ! 命がけで助けた恩義で、今回の最大のピンチ場面で助けてくれたわけじゃないんだぞ! もう、本当に江西陀さんが可哀想でした。可哀想で笑うしか無かったです。たぶん、最後の展開の後は絶対江西陀さんは咲岡殴ってますね。リニア加速して殴るレベル。そういう想像して心の中で喝采挙げてたりしました。やっぱり、咲岡は一回殴られないといけないよな!
 さておき。
 読み終わった後に引っかかってしまいましたが、ゆえに自分には傑作だった。そういう事が出来る一作であったかと思います。しばらく耳目口せんせの作品は読めないようですが、じっくり待ちます。待つのには慣れてますし、ね。
 とかなんとか。

*1:全然馴染みじゃない

*2:間違ってたらと思って予防線張りすぎ