もずや紫 『ラノベ部』4巻

 大体の内容。「今日もラノベ部は平和過ぎます」平和な中で、ほんのりとラブい物も生まれてきておりますが、それでもやっぱり平和です。平和を連呼してしまうしかない位、平和だからこそ出来る平和な光景が繰り広げられる、それが漫画版『ラノベ部』4巻なのです。
 小人閑居をして不善を為すという名台詞を知らないのかよ、という向きもあろうかと思いますが、この子等は閑居でも不善を為さない大人物ですよ! とまでは流石に言い過ぎですが、それでもその閑居を上手く使ってますよ、ラノベ部の皆は! と言ってしまえるかと思います。話してる内容が基本的にどうでもいい内容ですが、たかが雑談に深い意味合いを求めるなんてのは、それこそ小人閑居をしてるからこその考えであり、そうじゃない我々は、そのどうでもいい内容に一喜一憂、あるいは生まれ変わったら、こんなテンションで生きてみてぇなあ……。と憧憬を持つ者であります。訳が分かりませんね?
 さておき。
 そういう訳なので、大きな起伏、大きなゲインは起こらないこの漫画。それは原作からしてそうなので、原作既読組はそこは完全な織込み済みとして見ているかと思いますが、そうでなくてこれが初見の人はどういう風に思ってるんだろうなあ、というのは都度都度思います。ちょっとネーム量、話の部分が長くなるのが、漫画としては向いてない部分ではあろうかと理解出来ますが、それでも原作のエッセンスを殺さないように、あるいは更に活かすように、と苦労している節は感じ取れます。リレー小説回の文香の書いたあの名台詞の出し方とかは大変に上手くて、原作でさんざんっぱら笑ったというのに更にもう一段上の笑いを誘う形になっていて、出来ておる喃……。と虎眼先生顔で感じ入ったりしました。漫画として出すとして、どう印象付けようか、というのをきっちり考えたのが分かるのは大変嬉しいです。*1
 さておき。
 この巻はどの回もいい出来栄えでこれもこれもそれもそれもあれもあれもと取り上げてみたいんですが、それだと紙幅がえらい事になるので泣く泣く三回に絞って感想を。
 まず、幼馴染の話から、美咲が龍君の気持ちに、というちょっと過去の話「ビター・マイ・スイート」。二人の選択は愚かさは愚かしいと笑わば笑え、というとちょっと大上段ですが、この二人のあまりに近過ぎて、あまりに親し過ぎて、という微妙な間柄が非常に良く表されている回であるのは間違いないです。二人が交わす言葉も、だからこその味わい深いものがありました。それゆえに他の矢印の方々にここまでの接近が出来るのだろうか。というのを考えてしまいます。あるいは、だからこそ付け入れるのかもしれないんですが、それで上手く行くのか? と言うと思案の為所でありましょう。というか、美咲はある意味では結構ずるい子だよなあ。そこが魅力的な部分と直結しているんだけども。
 さておき。次は前の時も十二分に笑わせてもらったリレー小説回「涼宮冬馬のU1」。前回も色んな絵を使って魅せる様が見事過ぎたリレー小説回でしたが、今回は更にもう一段ギアが上がって、リズムに乗るぜ!した状態になっておりました。特にリアのパートは最終的に若先生絵柄(婉曲表現)になってこれを描けるテクがおあり! と驚きつつ爆笑し、文香パートのすごいふにゃけた絵柄+伝説の名台詞には腹筋が強固に鍛えられました。その後の展開も絵にするとシュール度が馬鹿跳ね上がって殊更腹筋稽古になりましたよ。ここまで元の話を絵に出来る強みで押し切ったもずや紫せんせは流石過ぎるテクニシャンですよ!
 最後に、日本語のテストを戯れに、する「いかんせん」。笑い所は非常に込み入っており、全体的に突っ込み所満載な回ですが、文香の解答に付随する絵が最高にふにゃんことしていつつ、文香の解答に対して過不足ない様はまさしく神業。そして最大のオチとして常に居続ける文香のポテンシャルの高さを感じずにはいられません。ここまできっちり美味しく、しかし本人はガチ、というのはなかなか難しい表現ですが、それが許される文香のキャラ性と言うものもしっかりと出ていたとも言えましょう。後、リアも意外とボケとして高機能なのも分かってくるのもいいですし、暦ちゃんが恥ずかしくなってほぼ突っ伏したままの絵もなかなか楽しかったです。
 そんなわけで、原作ストックの問題で後もうちょっとで終了しそうですが、最後まで突き抜けてくれる事を期待したい漫画であります。と書いて項を終えたいと思います。

*1:余談ながら、巻末のあとがき漫画でラノベ部の面々のあれやこれ、見えない所でどういう生活を送っているのかとか、こういうシチュエーションだとどうなるか、とか考えてしまっているもずや紫せんせは大変にガチでこの話が『ラノベ部』が好きなんだな、って分かって嬉しかったです。自分もそういうのを考えてしまう事もあったので、余計に親近感が湧いて、ゆえのこの漫画に対する真摯な取り組みなんだな、とも分かって、大変良いあとがき漫画でありました。