感想 道満晴明 『ニッケルオデオン【緑】』

ニッケルオデオン 緑 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン 緑 (IKKI COMIX)

 大体の内容「またおかしな漫画(やつ)が出てきたぞ」。そんなとにかく珍奇というか奇妙というかなショート漫画集。それが『ニッケルオデオン【緑】』なのです! 昨年出た【赤】も大変珍奇妙絶な漫画集でありましたが、【緑】もそれに負けず劣らず。切なくなる漫画からバカな漫画、果ては愛おしくなるような漫画すらある。それが、一冊にまとめられると、不思議と指向性を持っているような文字通りの錯覚を得てしまいます。ある種、作者の美学、あるいは諦念みたいなのがするっと繋がっているのかもしれません。まあ、そんな戯言はさておき。一つずつ適当に簡単な感想でも。
 『コロンバインで給食を』は漏れ出る記憶の内容から、徐々に2と3分の7の高さから飛ぶ子の内実が分かっての決着で、なんか綺麗にまとまるにはまとまってた感じに。後からもっと酷い事になりそうではあるんですけども。
 『ふたなのか』は普通に兄さん凄いな! と思わされる一方的な展開がもう。たぶん、兄さんもそれした事あるから、全く通じなかったんだろうなあ、というのも理解出来たりするのに長々語らないさっくりした内容で驚愕。
 『かわずカーズ』はつまりやったのね、というのはいつも通りの秘めた感じ、匂わす感じですが、しかしその為に命を、と書くと崇高な雰囲気を帯びるなあ。捨て鉢の方が正しい行動なのに。
 『飲酒番長』はアイデア一発勝負系の極致。無茶苦茶だからこそ出来る非合法というか、いいのかこんなに自然にそれ描いて。と老婆心が闊歩するのですが、そういう絵柄が好きではあるクラスタなので最高にご褒美でした。
 『恋わずらいラポール』はなかなか複雑な気持ちに。恋って怖いなあ。【赤】で登場の不可思議三角関係に一石を投じる形だけど、その後のページで無理龍って言ってるようで、その落とし方も含めていい複雑さ。
 『遊星より愛をこめて』は愛しい人との時間の為に、と書くと綺麗ですよね。本当にそいつがしたか、というのは謎だし、違う間柄の話と接続しているかもしれないけど、でも綺麗の方であって欲しい。
 『契約』はなるほど悪魔らしい奸智。ポイント制というのもなかなかいいアイディアですが、そこでわざわざ最後の1ポイントを自分達の為に使わせる辺りが、やはり奸智。
 『デック=アールヴの穴』は不可思議の話でフーンな内容ですが、最後のページを見終わった次のページが色んな意味で台無し感満点でなかなか面白いと思ってしまったり。ホント、それ台無しですよね!
 『カミサマレガシィ』は更に短い話が二編載っている変則回。前半はわりとグロく、後半はなんだか甘い味わいで不思議な回です。まあ、大洪水だから外に出せばいいよ(意訳)は汚いですが。
 『ヒッキー&ガッキー』は最終的に二人が出てこないのでどうなったのか、あるいは、と余談が挟まれまくる感じでしたが、最後のコマからして大丈夫だったのかなあ、という風に受け取る事にしました。精神衛生上、そっちのがいい。
 『カミサマミソロギィ』はまた短い話が二つ。片方はA。もう片方はその後に出てくるモノリスの接続がファミコンっぺれえので妙に楽しかったり。これも恋心の移り変わり話だよなあ。なんとなくこっちは可愛い感じなのは、あまり大げさな展開じゃないからか。
 『水神岩』は昔話調。先の話のモノリスが絡んでるけど、基本は昔話。昔話って意外と残酷だよね。というのをきっちりしているのが好印象。終わり方も昔話のもので、現代劇中心だった中では思いっきりの変化球だと感じました。
 『パラノイドアンドロイド』は、悲恋とも残酷とも言える切ない話。病院の名前とか刑事の会話が一々危険球ギリギリで、それが逆に華を添える感じでもあったり。最後のコマの切なさたるや。
 
 こんな感じかしら。どれも妙で愛おしい気持ちになる短編集でした。