感想 梅原大吾 『ウメハラコラム 拳の巻』

ウメハラの、コラム

 アーケード専門誌というニッチな誌面を彩るコラムとしてある、ウメハラコラムの単行本化、と聞いて気になる格ゲークラスタなアタクシめ。ついつい勢いで購入と相成りました。その前に『勝ち続ける意志力』も買っているので、状況的にはウメハラ漬けとでも言うべき流れとなりました。トッププレイヤー、あるいはプロプレイヤーの言葉として『勝ち続ける意志力』(感想)も高いレベルで好奇心を満たしてくれましたので、こっちも当然、あるいは必然のレベルで気になったのも仕方ない話と言えましょう。でないと、100Pで1000円取るというかなりの高め設定のコラム集なんて買いませんよ。え? 買って損したかって? 元取れる所の話じゃないから、問題無いよねっ!

正味な中身

 さておき、内容の方は、というと、これはかなりガチ。格ゲー一作の内容にガチに入る、というのでは全く無いんですが、でもガチ。およそ格ゲーの普遍的な部分での強さとか、そういうのに対する質問に答える形なので、そりゃガチにもなろうものです。折角のコラムで一作の内容の答えなんてされても困ると言えばそうですし、選ぶ方もそういうの選ばないだろうというのは理解しやすいと思います。
 では、勝つ為にはどうするか、という話になるわけですが、それは『勝ち続ける意志力』と地続きの内容となっております。この辺の意識が、勝ち続けるの方向、あるいはプロとしての方向なので、対症的には強いキャラ使えばいいじゃんという判り易い台詞もあるんですが、でも、それで強いって違うだろう。というウメハラリテラシーが存分に含まれているんですね。対戦して、高め合う。そうじゃなきゃ楽しくないし、プロとしてもやっていけない!(大意)というウメハラの言は無駄にかっこいいです。プロとして、ただ勝つだけでは格ゲーの園を広げられない、という考え方は、ある意味第一人者となったがゆえに持たないといけない物としてウメハラに圧し掛かっているようですが、本人はそれに臆していない、というのがコラムからはビンビン感じられて、とても良い物であります。
 これは単にウメハラが語るという形ではなく、随伴者、モリカワさんがいるからより鮮明になる所もあるかと思います。ウメハラと違う思考、生い立ちの人が質問したり、一緒に考えたりするからこそ浮き上がってくる、格ゲーにとって大切な事。それが良く見える形にしたのは誰の手柄なのか今一判然としませんが、その手腕、イエスだね! とは言えるかと思います。

良かった回話

 全体的にウメハラがぁ!近づいてぇ!画面端ぃ! というノリ(どういうノリだ)で質問に回答していくコラムなわけですが、その中でも良かった回というのはそれはあります。基本的な話をすると全部いいんですが、それでは紙幅の限界に挑戦というか無駄に長いので、二つにしぼりますと、まず一つ目はこの本の一発目「波動拳、どうしたらうまく撃つことができますか?」、二つ目は「ウメハラさんの好きな物と嫌いな物を教えてください」。これがかなり良い味だしているかと思います。
 「波動」の話はまずモリカワさんがウメハラの波動の撃ち方の分析から入るんですが、そこから話は2D格ゲーの波動の意味を考える方向に。所謂弾があるからこそ生まれる強制力、それがドラマ、展開、大局を産み、だからこそ格ゲーは楽しいんだ、という話になるんですが、そこで終わらず更に弾を撃つというのがどういう事か教えてやんよ! という流れになって淀みないんですよ。ちゃんと大局を見て弾をどう使っていくのか、というのが理論的に説明されて、無駄が無い。追補でウメハラ自画自賛するレベルできっちりとまとまっている回であります。また、キャプションも奮っており、

波動拳を撃つ」という行為は自分にとって、相手にとってどういう意味を持つのか、そこを知らなければうまく波動拳は撃てない。

 と書かれていたり。コラムのテンションにキャプションも引っ張られた好例と言えましょう。
 「好きな物嫌いな物」は、ガチで格ゲーについてばかり聞くこの連載コラムにおいて珍しいタイプの質問ですが、ここで語られるキャラ色の話は出色。物凄い理論がバックに有るような雰囲気でびしびし自分の嫌いな色をdisっていくー! と思いきや実はdisった黒が好きだっただろお前! という流れになるのは白眉。こういう、ウメハラの趣味趣向の話というのは中々見れないので、ウメハラを理解する端緒として非常に重要に思います。本人も、人を知る事が強さに繋がると言っているので、ここで色々ぼかしながら答えたのは、その辺も念頭にあるんだろうなあ、とか思ったりも。廃墟好きを理屈っぽく語ったり、米固かったら怒り狂うと言ったりするのもまた、良いファンサービスであることよ。モリカワさんグッジョブ。

引退とウメハラ

 上で上げた二つは出来が素晴らしいなんですが、もう一つ、上げるとすると引退について語った回もトピックと上げられましょう。何時になったら引退する? どうなったら引退する? という話に、真摯に答えるウメハラ。挑戦者を避けるようになったら、というのはなんともらしいというか。確かに、そういう風になったら格好悪いですものね。本人も、過去の出来事でそれは駄目だな、と理解しての発言なので、突発的な訳でもない辺りが重みがあります。そういう時期が、何時訪れるのか、というのは、ほぼ同世代だからこそ、気になる部分です。出来れば、もっと長く、魅せてくれればいいな、とか思ったりもするのでした。
 そういうわけで、全体的に格ゲーガチ内容ですが、これを格ゲーに知悉してない人が買うか、というと大いなる悩み所な程なので、ある意味幸せなwin-winの読書感がもたらされました。『勝ち続ける意志力』で気になって、というとあまりオススメ出来ないんですが、格ゲー勢ならマストバイ! と錯覚する位の出来栄えであったかと。いやあ、いい買い物した。