感想 佐藤両々 『わさんぼん』3巻

 大体の内容「草餅? あいつは柏木さんのバーターですよ」。そんなくらいに柏木さんが主人公でしたっけという雰囲気が爆裂している。それが『わさんぼん』3巻なのです。
 柏木さんが今回だいぶ出番があったというかどう考えても主役だったのは、一体どういう意味合いだったのか。そもそも柏木さんの存在がなんだったのか。そういう事を考えてしまいますが、それは夢の途中で挫折する人、という存在だったのかなー、とか思ったり。まあ、柏木さんは夢としては実家の家業も和菓子屋なので、職人としての道が終わってしまった訳じゃないんですが、やっぱり去る人という存在があるのは重要なのかなー、とも。それがあるから夢と言う物が際立つのかしらねー。とはいえ、だからってあんなに周到且つじっくりと柏木さんが去っていくというのをやったのは、それだけ存在として大事にされていたんだなー、という気持ちを持ったりも。そして突如としてハンナちゃんという言葉を思い出して、あれもある意味美味しいけど、存在としては酷い目に遭いすぎだろ……。とも思ったりも。この辺はコインの裏表なのかなー、とか思ったりしますね。キャラを扱うという事の、裏表。どっちも特徴的という事は、そのどっちも巧みである証左ではありますが。
 さておき。
 柏木さんは去っていく者としてという側面もありますが、恋する者という側面も持っていたのも、この巻でとてもクローズアップされた一因でしょう。しかも、草餅に恋するだけではなく、周りから、萩君と勤め先の人とに恋されており、その辺の絡まりあいもあって、更にこの巻でメインキャラであったと考えるのが妥当になっているかと思います。にしたっても、萩君も勤め先の人も、相手が去るっても引き止めたりとか告白したりとかしない、というある意味どうなの状態ですが、柏木さんの恋の直線がそっちには向かってなかったので、そして去るという決意が強かったので、告白してもどうしようもないのもまた分かるから困るというか、切ないというか。っても、どっちも草餅に宜しく伝えて、ってそれはどうなのか。それくらい自分で言うべきだろー、とも思いますよね。その辺が京都のお国柄なのかも、とも思いますが、そもそも草餅に言ったらヨロシク!になるんだから人選間違いすぎだろ。その点は特に問題にすべきですね。
 さておき。
 柏木さんの恋の直線が向いてた草餅の方は、明かされたからと言ってその事で思い悩むメンタルという性質でもないんですが、それでも自分には気持ちのある人がいる、と正直に言ってしまう辺りが清清しいです。基本的に馬鹿だけど馬鹿真面目な所がある奴だとは思っていましたが、思い込んだら一直線であるというのが、ここでもきっちりと提示された事になります。うん、良い奴だよな、草餅。だから、柏木さんも好きになったんだろうけど。でも、それでも、既に相手がいるというのがまた。それもまた、去っていく者として受け入れないといけないんだなあ。悔やみだけを残してではなく、色々と成長出来た、と柏木さんが思っているのが、救いでありますなあ。
 さておき。
 今回のちょっとした事でありますが、萩君が実家を継ぐ、家業を継ぐというのに新しい気持ちが生まれているという辺りは大変含蓄がありました。続けていけるって、とても素晴らしい事、誇りある事なんだと、草餅の存在が触媒となって気付いて、というのが大変良かったです。そういうのが無い人である私でも、その気持ちというのが伝わってきて、いいなあ、と思いましたよ。
 そんな事もありますが、どう見ても柏木さん大フューチャー巻。それが『わさんぼん』3巻なのでした。