感想 森繁拓真 『あねぐるみ』1巻

 大体の内容「できる姉!なんと聞こえのよい言葉か―――」。とあるおもちゃ会社勤務の姉と弟のドタバタ。それが『あねぐるみ』なのです!
 とあまりにあっさり言い切れてしまう辺りがこの漫画の基本が分かり易いという証左であります。が、にしても姉である暦さんはなんというか、業界的に斬新な物を発信するというできる姉としての側面より、弟である建郎さんに迷惑掛けてる側面のが多めに、と言うかほぼ全域に出ていてます。できるけど、迷惑な姉、というのが基本の立ち位置。それでも会社的には居て欲しいし、そういう迷惑は弟だから掛けている感じがまあ、なんというか良い物がありますよヨネ。なんのかんので仲はいい姉弟。いいものです。迷惑が掛けれる相手だから掛ける、というこの信頼感!
 さておき。
 暦さんの感じと言うのはちょっと違うといえばそうなんですが、どことなく芸能界における所ジョージさんポジというか、好き勝手やってる雰囲気が漫画の中からしっかり伝わってくるのはワザマエ! とか思ったりもします。率いる二課は業界では名が知れているけど、実質的な部分では一課の方が会社に貢献している。でも、それだけじゃねえだろ! という主張を特にするでもなく、ただ自然体で遊びつつアイデア出していく、というのはなんだか憧れる仕事の仕方であり、しかし憧れざるを得ない稀有な立場でもあったりするなあ、とか思ったりも。会社物はある種憧れの幻像が、読者側にしても作者側にしても、特に出る物ではありますが、それでも二課の皆さん達は特にそういう主張があるわけでもなく、楽しい事やっていこう、ってスタンスなのも、またいいなあと。暦さんの部下も大体フリーダムで、健郎さんにやっぱり迷惑を掛けるんですが、それもまた姉の迷惑の延長線上かなあ、とかなんとか。健郎さんや一課の北見さんというストッパー、クローザーがいるから、無茶しても成り立つ、というある意味縮図がそこにありますが、しかし、やっぱり羨ましい仕事風景ではあります。
 さておき。
 この漫画にある雰囲気、アトモスフィアはなんというか、妙に懐かしい物です。特に古い作品の発掘という事でもなく、普通に現代に連載されて単行本化された作品なわけですが、なんだか非常に安心して見れる。なんというか、こういうノリって昔あったなあ、こういう絵柄って懐かしいなあ、こういうベタな変人描写あるよなあ。という望郷の念という物が湧いてきます。単に古い、古臭いというのではなく、むしろ古めいているからいいという不思議な存在であるように感じます。ちょっと違いますがレトロとでも言いましょうか。時が未来へ進む誰が決めたんだと、あるいは退化も進化の方向性であると、言いたいと思います。この安心感、古めかしい感じ。それが無茶さがなく、安定していて、ゆえにとても安心して見れる漫画として、立ち上がっているのであります。派手なのが全てではないのよ! そういう漫画と思うのでした。