感想 ヤマザキマリ 『テルマエ・ロマエ』6巻

テルマエ・ロマエVI (ビームコミックス)

テルマエ・ロマエVI (ビームコミックス)

 大体の内容「ルシウスのお話、これにて完結!」。とうとう最終巻となった『テルマエ・ロマエ』ですが、前巻で鬼引きしておきながら、この巻ではルシウスはローマからタイムワープする事なく、話が展開されます。そうなるとさつきさんはどうなるのー!? とお思いになられるでしょうが、その点は抜かりなく、ルシウスが出来るなら、さつきさんだって出来るんだよ! というつもりなのかどうなのかはさっぱり分かりませんが、特に理由無くさつきさんがルシウスの時代の方に跳んでいきます。実際問題として、ルシウスが何故現代日本に跳べたのかは全く理由が開示される事がない漫画ではありましたが、それはルシウスの基礎能力みたいなものか、という感じで納得してた所でさつきさんも跳べた、という事象が叩き込まれて正直頭が混乱しました。ナンデ!? と思ってしまうので理屈を欲してるんですが、この漫画の肝はそういう所じゃねえから! というしゃっ面で最後までその理由が開示される事はなく、結局そこは謎のままとなりました。映画の方ですら戻る理屈が涙が出たらではあっても行く理由が不明でしたが、漫画の方は戻る理屈も不明のまま、ってんだから奮っております。その辺は勝手に邪推論するしか方法が無いので、勝手に理屈を考えて心の平均を保ちたいと思います。
 さておき。
 さつきさんが跳んで帝政ローマに行く、その前にさつきさんのおじいさん、鉄さんがローマに跳んでワンクッション置いているのがこの巻の一つの肝です。そもそも、鉄爺さんの妙な格好良さ、そして寡黙で、しかし人望が厚いという面が、この巻においてさつきさんの支援の為に動いた所で見えていましたが、更にもう一段の行動として、ハドリアヌス帝の寿命を少しだけ延ばす手伝いをする、というのがとても地味ながらかっこいい爺さんという評を更に付属させてました。というか、ルシウスが現代日本に跳んだ時は大体無様行動を取っていたのに対し、鉄爺さんはこれはなんだ? と思いつつも表情や行動は努めて冷静で、更にここはルシウスと関係がある! と見抜いたりしてたりするんで、余計に格好良さに拍車が掛かっておりました。もう、この爺さんの過去話すら見たいと思わせれう見事なキャラクター、存在感でありましたよ。
 さておき。
 この漫画のもう一つの肝は、実はハドリアヌス帝にあった、というのがしっかり明示された巻でありました。コラムの所で、ハドリアヌス帝の話でもあると明言されたのであります。そして実際、この漫画の最終話はハドリアヌス崩御を基点にして幕を閉じる訳で、なるほど、そういう側面が確かにあったなあ、と理解できたりします。にしても、ハドリアヌス帝の崩御の様子が明確に残っていないというのを逆手にとってのルシウス渾身の風呂での崩御、というのはなんか色々と思わされる物があります。コラムでも書かれているように、生まれて風呂につかり(産湯)、そして風呂で死ぬ、というのはこの漫画ならではの展開であったかと思いますし、最後のシーンがルシウスとさつきの子供が産湯に浸かって、というので生と死がグルグルと円環している感じも出ていて、なかなか唸らされます。人の命がめぐっていくのに、そこに風呂がある。というのは、風呂に注力したこの漫画らしくであるなあ、とか思いました。はっきり言って初発は単なるネタ漫画、それも一発ネタ漫画だという感じでこの漫画に相対していた自分ですが、こういう風にきっちりまとめられると、大変勝手な評価を高くしてしまいたくなる所です。ネタ的にこれ以上は辛い、4巻のエクストリーム入浴を越える大無様は流石に見れないだろう事も鑑みると、この辺りできっちり終えられたのは大変いい事であったなあ、とも。あの無様が好きだったんだけど、まあ収まりとしてはこういう形が一番ですよね。
 とかなんとか。