感想 牛帝 『同人王』

同人王

同人王

 大体の内容「同人王に、俺は成る!」。基本的な社会人スキルが全くなく、もう漫画しかない、と思ったタケオ。しかし、その道も絵が下手と言う理由で早々に断絶されてしまう。そこで彼はこう考えた。「俺は同人王になるために生まれたのだ!」。そこから始まる暗黒青春同人絵巻。それが『同人王』なのです。
 これを買った理由は全く無明でありました。全然文化圏違う方なのに、基本的に称揚ツイートしかリツイートしてないっぺれえ竹熊せんせのそんな宣伝気味のリツイートを何度も見るにつけ、面白いのだろうか、面白そうだ、いや、面白いのでは? という三段活用で気になったのが肝だったようであります。そんな訳なので、Web連載の方は全く見ておらず、つまり買ってみての出たとこ勝負でしたが、勝敗で言うと勝ちを拾った感じであります。つまり、いい所も悪い所もあるけど、いい所が辛うじて上回ったという状態であります。
 さておき。
 この漫画は大まかに前半と後半というくくりが出来るぐらいには、トーンが違ってきています。やってる事が絶望と暗黒だった前半と、仄かな希望が見えるけど大丈夫なのかと思わせる後半と、です。前半があまりにもタケオが駄目駄目駄目駄目だったり、肉便器(ペンネーム。ちなみに女性)先生の男の欲求を発散させれば、ざっくり言うとヌけばすべて上手く行くという理論がとち狂って且つその実践として同人を描いているという感じに跳んでいたり、それが複合してタケオが自殺を試みてしまったのを肉便器先生が思い詰め、ヌけばいいんだ理論で病床のタケオをレイプする(具体的な絵は無い)など、暗黒な雰囲気が付きまとっていました。が、そこから肉便器先生がタケオを導く展開となっていくと、暗黒具合は一転して鳴りを潜めます。鳴らないだけで、また何時でもそこに向かっていくんだろ? 実際、そういうカタストロフがあるような雰囲気もちらりと見せていたので、なんかあるんだろうなあ、と期待して読んでいたんですが、最終的にそういう堕ちる展開というのは、ついぞやってきませんでした。とても綺麗に、希望の見える形での終了となってしまいました。アイエッ!?
 そういう意味では、大変なゲンゲン肩透かしだったんですが、これはやはり求め過ぎた、前半があまりにいい感じに暗黒だったので期待しすぎたというのが正解でしょう。そりゃ、このまま行っていいのか? というアテンションや、肉便器先生が、タケオが同人に最後の藁として寄りかかったように、タケオを救うという事に寄りかかった部分とか、堕ちるんではないかという不安要素が散りばめられていましたが、これはサルまんとんち番長じゃないんですよ。あんな、漫画が進み、円熟し、狂っていく様を完全に描ききってしまってサルまんの命すら絶ってしまった狂王の再来を求める方が狂っているのです。崩壊する様を見たいという黒い欲求でしかないのです。ちゃんと綺麗に、落とし所に着地するのが、ある意味では正しい事なのです。寄りかかるのをお互いにお互いでする、という一つの答に向かったのは、正しい事でありますし、それはそれでめでたい事でもあるのです。
 ですが。
 やっぱり、個人的には前半部の暗黒っぷりが好きなんですよね。タケオは本当に駄目な上に駄目なりに考えて結局駄目で、という暗黒スパイラルでしたし、肉便器先生はその思考が中々壊れててやばい。その暗黒具合にはっきり言ってド下手である前半の絵がミクスチャーして、えもいわれぬ味わい深さが屹立しているんですよ。そして絵が全体的に安定していくと同時に、作も安定していくんですが、それがどうしても受け入れられない部分があったりもします。前半部のどうしようもなさから、徐々に上向いていくのが、どうしても受け入れられなかったりするのです。これは醜い嫉妬なのか、単に作の良さがその前半部の暗黒にあるという理屈なのかはさっぱり不明ですが、でも、理屈抜きでやっぱりそう思ってしまったり。別の意味で伝説になる方向も、あったのではないかとか。それだと牛帝せんせが今後生きていくのが難しくなりそうですが、一回の伝説を目指すのだって、ありだったんじゃないか。と思うのはやっぱり良くないですよね……。
 とかなんとか。