感想 もずや紫 『ラノベ部』5巻

 大体の内容「龍君はどうしてこう矢印一挙に受けるのかについて」。まあ、この漫画のヒロインですからね、龍君。異論は認める。という冗句はさておき、ラノベ部の皆の色んな気持ちが交錯する、それが『ラノベ部』5巻最終巻なのです。
 拙の気持ちを正直に申しますと、文香さんの龍君への気持ちというのがラノベ版に比べると唐突感があったよう感じました。でも実際そうか? 読み返してみると、文香さんが細かく気持ちがあるなあ、ってのがあるので、自分の記憶力よ! って感じでありました。この辺は元のラノベ版が3冊、しかも結構短いスパンで出たので記憶が濃厚だったのが、原作との巻構成、内容構成の違いとして出たように思います。
 そんな訳で、この巻は主な内容として龍君と文香さん、そしてリアさんの恋話な訳ですが、恋は戦い! ってな塩梅にはならないで、文香とリアは友達ですからギスギスしたくありません。という明確な意志の元、同時告白という形に落ち着きます。お互いに恨みっこなし! というのは大変美しいですが、美しいがゆえの高度な取引っぷりであり、やっぱりこの作品は得体の知れない凄みを持っているなあ、と襟をを正してしまいます。その高度さは龍君と美咲さんの相変わらずの謎の間柄や、龍君への潤君の意外な気持ちでも発揮されておりますが、漫画となってその部分が原作とは違う味わいを持っているのはやはり特筆点でしょう。
 龍君と美咲さんの会話ターンは、同時にしているゲーム画面を映しつつ話が進む訳ですが、これが本当にゲームしているなあ、っていう空気。顔の向きや姿勢、映像の入れ方とかガチでゲームやってる者のそれなんです。それが余計に二人が気安い、気の置けない所の話ではない関係であるのが滲み出ていて素晴らしい物でありました。タツジン!
 対して、龍君への潤君の気持ちの方は、原作では一行でさらっとでもエーッ!? というインパクトでしたが、漫画版は絵が出来る! というのをしっかりとした、えっ!? そういう事なの!? というのが押し出された表情が描かれておりました。その前段階の、「竹田君はいいひとだなあ」の表情でえっ? ってなってのその表情で、これまた見事な仕事。全く初見でないから感じられたのか、それとも、なのかは分からないので、その辺が分かる人の感想が待たれます。あるでしょうけど。
 絵がある事のインパクトとしては、原作ではイラストなしで押し切られた暦ちゃんと雪華ちゃんのメールやり取り、そして画像贈りあいがちゃんと絵が、というのでエロス! でありました。そして雪華の執着っぷりも絵があると余計に感じられて流石に引きましたよ。原作ではそれ程でもなかったんですけども、やっぱり絵は偉大ですな。
 偉大、というとやはりもずや紫せんせは偉大やったんや! と思わされるのが漫画版ボーナストラックとラノベ版ボーナストラックの漫画化。漫画版ボーナストラックは丁度その手前で本編が終わった後の、本当にボーナストラック感がある物で、新たな矢印が生まれてエーッ!? ともなりしたが、それよりもそこでいともたやすく行われるエロスな行為ですよ。まあ、エロスったって見えないですけども、そこはそこまでしてくれたのをありがたく思いつつ心眼ですよ。眼福……。
 ラノベ版ボーナストラックの漫画化は何故入れられたのだろう。いや、あって欲しい話なんですけど、それでもやっぱり何故? という尺でありました。この辺は連載では出来ない尺だからこそ出来る事、って側面もあるんでしょうが、邪推すると、この巻で出番がほぼなかった吉村への救済策だったのではとも。元からこの原作においての話でも救済策めいてましたが、それが漫画にまで及ぶというのは、吉村とは。悲しみとは……。って気分に。原作でもっとも印象の薄い子だからなあ。最後いきなり持ってくけど、それはそこまでに印象が無かったかからゆえでもあるしなあ。
 さておき。
 『ラノベ部』という作品が、こういう形でコミカライズされる、というのは正直何故!? と思ってた時期もありましたが、こうして最後まで触れてみて、やっぱりこの作品、『ラノベ部』が大変好きだったんだなあ、というのに強く気付かされました。龍君と潤君が語る回での、「世界が優しいから……」はこの作品にも通じますが、そこであえて現実は、みたいな話を、そして、だからこそ優しくあろう、みたいな話を入れてきていますが、それに対して再見なのにこうも強く胸を打たれるのは、やはり平坂読せんせももずや紫せんせも、どっちもそこを踏まえてきっちりと語ろう。見せようという意志を持って仕事に望んだからなのかなあ、などと良く分からない大悟を得てしまったりしました。すなわち、いい仕事というのは、こういうのだろうなあ、と思ったって事ですよ。だから言えます。いい仕事、ありがとうございました。
 とかなんとか。