感想 タチ 『桜Trick』3巻

桜Trick (3) (まんがタイムKRコミックス)

桜Trick (3) (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「スキって、なんだろう」。今回最大のトピック、それは美月会長の卒業と、好きという言葉についてです。美月会長が、ついに優さんと春香さんの間に、好きという言葉をもたらす。それが『桜Trick』3巻の重要事なのです。
 元々好きという言葉はあんまり出ない漫画でしたが、そこはまだ無自覚なのかな? 程度の理解でちゅっちゅしている様を見ていた我々ですが、今回の美月会長の春香さんへの恋心の気付き、そして好きという事を告げる段になって、優さんと春香さんとの間には、まだ好きという言葉が醸成されていない、という事実を突きつけられます。お互いに大変特別な関係、だけど、そこに好きという言葉は、形としてないんだ、というのを、美月会長が看過する訳ですよ。この巻内では、まだ大きな流れとしてその事は追及されず、美月会長の春香さんへの好きに対しても、優さんと考える、と答える訳ですよ。確かに春香さんには優さんは一番だけど、そこは好きなのか、というのが問題として、今後に対して残っている形となっております。その辺の機微とやはりキスをする事に対して、どういう回答をこの漫画はしてくるのだろうか、というのが大変気になります。今までも大変な漫画であるという風情がありましたが、この辺りの回答次第では、もう一段昇る感もあります。
 さておき。
 美月会長が卒業というのも、この漫画にはかなり大きな事なんですよね。この漫画、あんまり強く言わないんで忘れがちですが、もう新入生が入ってこない、という事実が存在します。それは、学校という素地に終わっていく世界というの重ね合わせているのであります。少しずつ、寂しくなっていく。それが一つ、美月会長の卒業と舞台からの退場(県外の大学に行く)いう形で顕在化したように思います。学校三年で、学校自体も終わる、という、形として学校がずっと続く中の、ひと時としてある場合の多い青春物にしては特殊な状況下であります。そこにおいて、優さんと春香さんはどうなっていくのか。ある種、退廃的なものすら邪推出来るモチーフであります。そこに、先に書いた好きという言葉がどのように織り交ぜられていくのか。この漫画、思った以上にとんでもないのかもしれません。
 さておき。
 美月会長がいなくなってしまうのは切ないですが、今巻ではとうとう恋心を自覚して、曖昧な間柄の優さんと春香さんの間に、というボス感が半端ではなかったんですが、そこでやっぱり春香さんの態度に割って入れないものを感じて、そしてそんな春香さんだから好きだったんだ、というのに気付いて身を引く、ってのがもうね。人となりとして、略奪愛する人でもないだろうに、そこで一回割って入ろうとした辺りの気持ちと、それでも身を引くと結論した気持ちを考えると、本当にこの人は……。いい人と巡りあって欲しいと思わずにはいられませんでしたよ。自分の気持ちが分からなかった頃の美月会長は可愛いでしたが、気付いた後、そして身を引く所は麗しいと言えましょう。いやほんと、美月さんの未来に幸あれですよ。そんな感じで美月さんがとうとう退場して、二人の間に割って入る者がいなくなって、今後もどうなるか気になる、『桜Trick』なのでした。