感想 押切蓮介 『ハイスコアガール』5巻

 大体の内容「大野さんとの別れ? そして戦いへ!」。今までなんのかんので運転手の爺さんのおかげでゲーセンへ行けていた大野さんでしたが、その爺さんがお役御免! ついでに教育係がハルオに大野さんとの関係を断ち切るように言ってくる! これでもう会えなくなる、という雰囲気を醸し出します。そして、もう一方のハイスコアガール、日高さんとハルオが、ついに雌雄を決する事に、という戦端が開かれて次の巻へ! という塩梅なのが、『ハイスコアガール』5巻なのです。
 それにしても、大野さんとこれで最後になるかも、という逢瀬でのハルオの対大野さんスキルの高さが大変素晴らしかったです。元々大野さんはほぼしゃべらない娘さんで、アニメ化の時どうするんだよレベルのしゃべらなさなんですが、それに対してのハルオが、本当に上手く意を汲んでいるんですよ。恋心とかそういうのは分からないくせに、今こう思ってるな? とか、腹減ってるな? とか、今どういう事を大野さんが考えているか、というのをきっちり理解しているんですよ。それがもう、堪らなく愛おしい空間を作り出していまして、この二人の関係がしっかりとした地盤を得ているのが分かって、もう。こんなに相手の事が、しゃべってこなくても分かるのに、というのが堪りませんよ本当に。それでいて、今回の別れに対して大野さんは特に泣かなかったのがまた。前の別れの時とは、状況も年齢も違いますが、でも、すっと別れるんですよ。それがまた、何とも言えない哀愁だけではない、愛しさと切なさと心強さとを感じるものがあります。しかもその後が大野さん視点でのハルオとの出会いからの話となっており、それでもやっぱりモノローグ一つしない大野さんですが、ある意味ハルオと同類という事実としてゲームキャラが語りかけますが挿入され、気持ちが変化しているのがじんわりと感じさせられます。それゆえにこの別れは辛くなかったのかという気持ちもあるんですが、ここでハルオの「元気でな」が効いてくる。さよならじゃなく、元気でいて、また会おうというニュアンスの含まれた、と勝手にこっちが感じる言葉に、大野さんも色々と思ったんだろうなあ。と感じさせてくれます。
 対する日高さんはゲーセンでモリモリと腕を上げてきています。ハルオに対して告白に近いというかほとんど完全に告白した彼女ですが、しかし戦わなければならない、そして勝たなければならないという運命に身をゆだね、そこで更にあがくのです。その為のゲーセン通いから、夜会(深夜のゲーセンで対戦会)に誘われてそこでもう一段、腕を磨く形に。なんか告白からお付き合いに行くまでに回り道にも程があるというかどういう道進んでんだよな状態であります。本人もこの運命に翻弄されておりますが、それでも、というんだからこの恋路に対する並々ならぬものがあるのも感じます。それとは関係あんまりないですが、夜中に対戦させてくれるゲーセンって素晴らしいですね……。今ではほとん失伝した文化だけに、回顧の念が湧きあがります。そういうゲーセンがあったかもと思うと、あの頃というのは良い時代だったのだなあ、と思ったりも。そこの主催がゴス女な辺りが時代の先端性を感じさせます。そういう女性が幅を利かしてた、というあの頃のゲーセンのアトモスフィアの一端とも感じたり。今はゴスの人
ゲーセンって田舎じゃあありえない光景になっちゃいましたから、余計にですね。
 さておき。次の巻ではハルオと日高さんの戦いの雌雄が決するんでしょうけれど、果たしてどうなるやら。着実に力をつけている日高さんが、ハルオに負けるというイメージが浮かばない。というか勝てるのかハルオ! ここで勝たないと、だけども、負けても何か失うか? とも思ってしまう。その辺のモチベーションの差とか、出そうだけど、本当にどうなるやら。そっち方面の描きが少ないので、そこんとこでやっぱり差が出るのかなあ。あるいは、対戦の中で、ハルオが何かに気づくとかかしら。
 とかなんとか。