感想 ほた。 『LSD 〜ろんぐすろーでぃすたんす〜』1〜3巻

LSD ?ろんぐすろーでぃすたんす? (1) (まんがタイムKRコミックス)

LSD ?ろんぐすろーでぃすたんす? (1) (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「LSDさいこー!」。短縮して言うと大変アレな台詞でありますが、そういうネタは一回しか出て来なかった漫画、それが『LSD 〜ろんぐすろーでぃすたんす〜』なのです。
 さて、3巻にて完結したこの漫画がどういう漫画だったかという総括を始めますが、よくあるゆるふわ系部活漫画であったか、というと全くの否な辺りがこの漫画の良さでありました。雰囲気はよく、ゆるふわな部分も多いんですが、しかし陸上をする、というのをしっかりと描いた漫画でありました。それも、陸上をするというのを勝つ! という側面以外から描いた、というのが非凡な所です。今まで累々と積み重なれてきた部活物、それも運動部物が基本として内在していた勝利する、という部分に対して、この漫画は一線引いています。主人公たる朝岡さんは、最初はダイエット目的で走るという、ゆるふわっぽい目的でありましたが、走っているうちに走るのが好きになっていきます。しかし、彼女は特に速い訳ではない。というかむしろ遅い部類。なにせ高校生で走り出したのだから、むべなるかなです。そして記録会などでは全く成果を残せません。でも、それでも、朝岡さんは走ります。それが、好きだから。この辺が今までの部活物が持つ、勝利という部分に対するアンチテーゼめいたものであります。勝利こそを至上とし、勝つ事こそに意味があるという思想への新たな一ページとして、これは記録し記憶されるべきではないか。そういう戯言
 そういう部分がしっかり出てくるのは、2巻中盤で加入した1年生の辻ちゃんが、ただ勝利の為に走る、というのから他の、朝岡さん達の走る意味合いの違いに気づいていく3巻の展開にあります。勝つのが一番楽しいと感じていた辻ちゃんが、他の人の楽しみ方、走りへの想いを知り、自分の考え以外を考えついてなかった浅はかさを知る。でも、それでも自分は勝つ走りがしたいんだな、という所までいくのが、本当に非凡な漫画として立ち上がる要因です。勝ち負け、というのは一体なんなのか。何が勝ちで、何が負けなのか。あるいは、勝ち負けの為に走るのか。そうではないのか。そういうのがこれ! これこそ正解! とは言わないまでも、朝岡さんみたいに勝てなくても走るのが好きだって部分もある。辻ちゃんみたいに走る=勝つの為! という部分もある。安食先輩のみたいに走るのと部活の空気の良さが一体化しているの部分もある。浅見さんみたいにきっちりと学生時代でそれを終わらせる部分もある。そういう色んな所作を描ききったと言える漫画なのです。どれが正解、というのでもなく、つまりどれが勝ちというのでもない。色んなレイヤーがあるのだ、というのを運動部漫画で描いた、という訳なんですよ。こういう視線って、大変貴重じゃないかと思ってみたりも。
 さておき。
 1巻のカラーが部活勧誘ビデオの撮影で、3巻の連載終了付近がまた部活勧誘ビデオの撮影で、というのはなんか上手く出来ているなあ、と思ったりも。この辺は狙ってたのかなあ。とも思ってみたりします。それくらい出来過ぎの決まり具合ですよ。3巻の描き下ろしも勧誘が上手くいった話になってるし、やっぱりこれ狙ったのかなあ。それでいて、3巻カラーと描き下ろし最後が綺麗に絡まってくるのもあるから、やっぱり腕前鋭いですね、ほた。せんせ。次の連載があるなら楽しみですが、どうなんだろうなあ……。これだけの腕前なのになあ……。
 とかなんとか。