感想 よしむらかな 『ムルシエラゴ』3巻

ムルシエラゴ(3) (ヤングガンガンコミックス)

ムルシエラゴ(3) (ヤングガンガンコミックス)

 大体の内容「DK編完結! しかし謎が増えていく……」。顔剥ぎ殺人鬼の、あるいは父と娘の話であるDK編がこの巻の基本的な収録編。しかし、感情移入めいたものが出来るのがむしろ殺人鬼の方、というある種無茶苦茶な漫画。それが『ムルシエラゴ』なのです。
 というか、メイン格である黒湖の精神性がかなり異常、というのが折を見てぶち込まれるのがこの漫画の流儀。こいつなんで主人公なんだよ! という気持ちになる位に黒湖は良感情を持つのが難しい性格破綻者つまりキチってる訳ですが、それが故に、対照的に今回の仮面蒐集者に対して憐れみみたいなのが浮かんでくるのです。狂ってるけど、父として、先達として、というのが出てるとことか、どうにか違う方向無かったのかなあ、とか。とはいえこの仮面蒐集者も相当キチってるんですが、でも黒湖の前に立つとそれが裏返って、人間らしい部分、サイコパスの中に残っているほんの少しのそれがにじみ出てくるのです。そして、それが故に黒湖のヤバさが、結局他人どころか自分の命すら大して気を払っていないという部分とかが更に上書きされるのであります。そういう意味では、この漫画の主人公としての役割というのは、“最悪”というのだろうか、とか考えてみたり。でも、その黒湖を見続けているという謎人物とか、前の屋敷編で出会ってたスナイパーさんとか、ヤバそうな人はまだまだいるし、そこもどう絡んでくるか謎いし、で、黒湖の“最悪”はまだまだ更新される余地がありそうです。
 さておき。
 黒湖もヤバいですが、それよりもひな子ちゃんの件ですよ。今までもちょっとこの子ヤバいんじゃないか、という疑念はあった子ですが、今回の豹変、というかスイッチが入った感じでの行動が色々とヤバい。自転車での運転技術がヤバいとかそれで人を攻撃したのがヤバいとか、ありますけど、一番ヤバいのはスイッチがオフになっての、おあいこだね! でしょう。相手を本気で殺しかけておいて、その後にスイッチオフったらにこにこして、ですから。予想通り、いや予想以上にヤバい子ですよ、ひな子ちゃん。基本的に可愛い子に見えるのに、その奥底は全く見通せない、ある意味では黒湖よりブラックボックスがでかい。どうしてこうなったか、あるいは黒湖との出会いからの足取りはどうなっていたのか、というのが気になります。なんか一番開けちゃいけない箱のような気もするんですけども。怖いもの見たさですか。
 この感情移入を拒絶するキャラ、というのはなんか変なものだなあ、という気もします。常の話ならメインキャラクターは感情移入出来る事が至上とされますが、黒湖はこいつの気持ち分かりたくねえ! という思いをこちら側にもたらすレベルの“最悪”なキャラクターですし、ひな子ちゃんは普段の明るさからの今回のギャップから、内面がどうなのかは知りたいけど積極的には知りたくない感じのあるキャラクターであったりします。そういう意味においては、常の域のキャラクター論みたいなのとはまた違った、しかしだからこそその無茶が他のキャラの心性、心根を見せる引き立て役として立ち上がってくる、という異の域のキャラクター造形である、とか思ったり。内面に入れないからこそ、何をするかわからない、というのもあるのかなあ。まとまらないからこの辺でいいやこの話。
 さておき。
 どうでもいい話ですが、よしむらかな絵で描かれるレズックスは大変エロいですヨネ。元々女体のエロさ加減が優れていて、黒湖もあんなヤバいを体現した顔だけど体つきはエロス!(CV:伊藤かな恵)で所作もエロス!(CV:伊藤かな恵)な部分があって、それが巻末の描き下ろしの百合ックスで爆発してて堪りません。YGは青年誌だからそういうのありだよね! 具体的な性器描写無いならOKだよね! という合法ラインを確実に責めてくる所作、嫌いじゃないぜ。というか、単行本描き下ろしだからってこれ描いていいっていうYG編集部の判断力も卓越しているなあ。そう言うの見たいから大変嬉しい嬉しい嬉しい! ですけども。そして次の話である薔薇色の牢獄編はさっくり終わるのか、もっとレズレズにしていくのか。なんか方向性的にレズレズになっていきそうで嬉しいです。もっとやって! レズレズしてる時の黒湖はなんか許せる部分があるから! そこんとこもおかしいっちゃおかしいですけども!
 とかなんとか。