感想 鳥取砂丘 『逢刻町そらそれ』

 大体の内容「鳥取砂丘の日常ファンタジー」。その世界は色々不思議だけど、結構暖かい。そんな味わい深い仄明るい感じが、この漫画、『逢刻町そらそれ』なのです。
 鳥取砂丘せんせというと『境界線上のリンボ』がするっと出てくるのはきららオタの嗜みですが、この漫画はそれよりも日常の方向性が強い雰囲気。どうにも住人も町もおかしな、というかファンタジーな雰囲気が強い逢刻町の人々の、でもその日常と言う言葉がより強く立ち上がっているのは、その起きる事の些末さ、それもいい些末さがあるからでしょう。
 1巻完結らしいゆえに数少ないエピソードのどれも良い立ち上がりしていますが、日常面の強いのは第3話「ハレの日にみえるもの」。雨の日のちょっとしたドタバタが繰り広げられる回ですが、それも雨漏りで大変、からの吸わせてた水の氾濫で酷い目に、という日常話です。でも、その回の持つ、そして全部の回が持つ独特の雰囲気は大変素晴らしい。雨の音に不安があったトコさんが、ミフネさんの言葉でその不安が変わっていく、むしろ好ましく感じ出す、というのが良いの良いのです。こういう日常面のちょっとしたことが強く印象に残るので、日常物であるなあ、と、感じるのです。
 とはいえ、ファンタジー面も十二分にあります。同じ第3話でも、トコさんが見た謎の巨大建築物とか、トコさんが一瞬思った謎の事とか、存分に出ています。その中でも第6話「影の街の中で」はファンタジー面が強い、逢刻町の謎の一端を明かす回で、地下に棲む人達の不思議さとか、その地下にある逢刻町の元の姿、この下地から更に新しくなっていっているという謎が提示されます。色々不思議はあったけどこの辺、どうするつもりだったのかなあ、とか。
 どうするつもりだったのかなあ、と書くのは当然理由があり、この漫画はこの巻のみで終了と相成っております。1巻完結ですが、どう考えても色々するつもりだったのが作の中の伏線とか登場人物とかで良く理解できます。それが良く分かるのは第4話『シバさん家の四姉妹』及び第5話『大広場落ち物市』。
 前者は新たに四姉妹が登場する回で、元々謎のあるミフネさんにその四姉妹が絡んでくる回。どうにも深い因縁、そもそも長女の人がくびちょんぱされている(けど生きてる)ので因縁が色々ありそうで、それが簡単には出ないだろうなあ、というのが良く分かる回でもありました。その裏話も出来るだろうし、因縁で話が進む事もあったんだろうなあ、とも思えてしまいます。
 後者は基本的に市場で騒動してドタバタした回で、モチという謎生物がそこで作られるとか謎面の方でもアプローチが強い回ですが、そこの騒動を止めた人物、尖り耳の女性の存在が、あの人誰なんだ? というのをミフネさんしか知らない形で終わって、これは今後出したかったんだろうなあ、という雰囲気が、終わってみると色濃いです。
 これだけ色々ありそうな雰囲気があったのに、終わってしまう訳ですよ。もう、どうしたらいいんだ、この漫画好きだなあって思ったこの感覚。とりあえずアンケート出すのと、ここで感想を書くことしか他に昇華しようがないのです。もっと尺があれば、もっと色々この漫画世界を堪能できたのだろうなあと思うと、本当にやるせないのであります。でも、良い漫画なので、折に触れて読みたいと思ったりするのでした。