感想 九井諒子 『ダンジョン飯』1巻

 大体の内容「ダンジョン飯 ああダンジョン飯」。もうちょっとどういう漫画かという話をするなら、下層のレッドドラゴンに空腹のせいでしてやられた面々が、仲間の救出の為に再び立ち向かう、が金が無いのでダンジョン内の飯を魔物を食う事で済ませようという話。それが『ダンジョン飯』なのです。
 魔物を食う! という発想自体はそれなりに昔からあり、自分の知っている範囲ではかなり昔のウィザードリー小説アンソロの一篇にそういう話があり、そこでは倒し方をかなり気にするという倒し方考えるより先に倒さないといけないウィズのシビアな世界にしては無茶な話でした。他にもゲーム『ダンジョンマスター』で敵の落とした肉とかで空腹を満たさないといけないというのもありました。この辺はやはりTRPGでも似たような発想があったのではと思われます。
 そういう思想の物の延長線上としてこの漫画はあるのですが、それらよりこの漫画が際立っているのは、食う為には魔物の料理の仕方を知らないといけないし、その生態も知らないといけない。という基本的に妄想が過ぎるけど故に妄想家のする当然の思考をもって、魔物の倒し方、処理の仕方、及び調理の仕方を考えている点です。


倒し方の一例


処理の仕方の一例


調理の一例

 全部「第三話ローストバジリスク」からですが、他の話でもその生態や処理、調理の仕方についてかなり考えて、つまり妄想して作られているのが好印象なのです。歩くキノコは足が美味いだろうとか、バジリスクの卵は蛇が主体だから蛇卵だろうとか、人食い草の細かな生態の違いとか考える、そういうの楽しかっただろうなあ。特に「動く鎧」の回は生態、処理法、調理が未知の世界の魔物なので妄想度高くて、それでいてその蓋然性が高くて大変好ましいです。動く鎧というのはファンタジーではよくある、そして魔法の産物とされる事もよくある題材ですが、それをどう食えるもの、つまり生物として立ち上げるかというのがしっかりしているので、個人的にはこの漫画のオールタイムベストになるんじゃねえかってくらいです。この話良く思いつけたなあ。ネタバレ感想して、あれがあれだからそっちなるか! と書いてもいいですが、これは実際に手に取ってみて、成程! と思っていただきたいので詳しくは書きません。でも、本当に成程! ってなるんですよこれが。
 さておき。
 キャラクターの様相もこの漫画の良さの一つです。基本となる4名がそれぞれ魔物食についての受け取り方が違って、非常に良い混在の仕方をしていて、それがこの漫画の面白さ、それぞれの反応の差とか、と、理解しやすさ、それそうやるの!? というのを一緒にやってくれる、として立ち上がっています。一人ずつ見ていきましょう。


ここだけ見るととてもリーダーなんだけど

 ライオス。人間の戦士。パーティーのリーダー的存在。しかし、実は魔物の生態が非常に気になっていて、それが度を越して味も知りたくなった、という困った人であったのがこの話の導入の回で判明。仲間からサイコパスだ、とすら言われるが、実際の所人食い草の種を持ち帰って地上で植えたいとか、大蝙蝠の骨の機能美に美しいとか言い出したりするので実際ヤバイ人であります。魔物食についてはそのガイドブックを持っているくらい実はやりたかったので、その部分では嬉々としていたり。


力強い忌避

 マルシル。エルフの魔法使い。パーティー内で魔物食に対して忌避感が強い人。毎度振舞われる食事に忌避しつつ食って美味しいする立ち場と言えます。魔法使いとしては高位で初期階層の雑魚モンスターなら普通に魔法なしで殴り倒せるし、魔法は高火力らしいが、ダンジョンの初期階層ではオーバーキル過ぎて使いづらいのか、あんまりそう言う部分が見れなかったり。そのせいでへっぽこめいているのは御愛嬌か。


こういう職業っていぶし銀ですヨネ

 チルチャック。ハーフフットの罠、扉専門職。魔物食に対しては嫌なのは嫌だけどちゃっかり食っているという立場。基本的に戦闘向きではない種族と職なので、マルシルと同じように賑やかしみたいな側面もあるが、ちゃんと罠や仕掛けがある場所では仕事をするいぶし銀の魅力がある。基本的にマルシルと同じ突っ込みポジションでもある。


コワイ!

 センシ。ドワーフの戦士。そしてコック。ダンジョン飯を10年近く続けているという生粋のダンジョン飯リスト。基本的に思考がダンジョンで魔物を食うにシフトし過ぎて常識がぶっ壊れてる、毒で死にそうなの人がいるのに毒消しを飯の素材にしたりするなど、ので、ぶっちゃけ狂っていると言えるレベルなのでは、とも。しかし作る飯は大層美味そうなのが性質が悪い。
 この4人がダンジョンに潜りながらダンジョン飯していく訳です。魔物食に対して嫌なのが一人。食えたら別にいいのが一人。食えて嬉しいが一人。ずぶずぶが一人。というバランスが絶妙であると言えましょう。寄り過ぎてないのがいいんですよ。
 さておき。
 この漫画はファンタジーだからなのかダンジョン物だからなのか、実は結構<死>に対してシビアです。罠も初手から致死性の物が多かったり、人食い草やバジリスクに殺されてる人達もいたりします。蘇生魔法があるらしいので、そう言う意味では死んでも生き返れる、というのがあるようですが、失敗もあるとか人が来ない所ではそもそも回収が難しいとか流石にう●こになっては……。とのことで、やはり厳しい所もあります。そんな中で飯を食う、というのがまた一つ違った側面、この漫画の言葉を借りるなら「ただひたすらに食とは生の特権であった」という、生きているから食えるんだ。という側面として際立っているのです。ちゃんと目的の、仲間を助けるをしつつ、そういう生の特権を謳歌する部分もある。真剣だけど、ピリピリし過ぎない。それは食があるからだ。そう言う所もまた、この漫画の魅力なのです。いやあ、いい漫画だ。