感想 氷堂リョージ 『高尾の天狗と脱・ハイヒール』1巻

高尾の天狗と脱・ハイヒール 1 (バンブーコミックス)

高尾の天狗と脱・ハイヒール 1 (バンブーコミックス)

 大体の内容「高尾山よいとこ一度と言わず何度もおいで」。彼氏に振られたお気楽OLノリコさん。そのヤケを高尾山に登ることで消化しようとして失敗しかけていた所に、高尾山に住む天狗の子、聖と出会い、そこからノリコさんの高尾山登りが始まるのでありました、というのがこの漫画、『高尾の天狗と脱・ハイヒール』なのです。
 この漫画には色んなレイヤーが重なっています。ノリコさんがちょっとずつだけど変わっていくと言う成長物としてのレイヤー、不可思議な存在との遭遇という邂逅物としてのレイヤー、ノリコさんの自堕落さが生み出す笑いのレイヤー。それぞれに十二分に存在を持っていますが、その中でも一番色濃いのが高尾山礼讃のレイヤー。もっと言えば熱い高尾山推しであります。この高尾山推しは本当に濃く、この作者が本当に高尾山好きなんだな、というのが、ノリコさんがまず高尾山を登った後は高尾山観光のメジャーな所、ダイヤモンド富士や火渡りなどに入って、そしてその後どんどん細かいネタへと突き進んでいくという、明らかに沼にはめようという意志力を感じる構成にもろ見えます。ガチの取り込み方やん! この強力な意志力に、他に挙げたレイヤーが絡まって、この漫画を形成しているのです。それだけ、高尾山は魅力的なのだな、というのが良くわかる訳でもあります。そういう部分をきっちり魅せて、高尾山と一言で言っても、それの持つ魅力は非常に多岐に渡っているのも、きっちりと描かれています。サンダルで登るおばはんからナイトハイクまで、本当に多岐に渡り過ぎですが。というか、この推しの強さ、一体どういう事なんだろうか。高尾山サイドから利益提供を受けてないとここまでの宣伝漫画を描けないと思うんだけど。と思いましたが、貰ったものは金とかじゃない、高尾山に登る、それ自体がかけがえのないものなんだ。という風に感じたりもするので、高尾山魅力すげー、と素直に思う事にします。
 そんな高尾山になんとなくのめり始めたノリコさんの成長部分とやっぱりまだ駄目な部分が織りなすこの漫画の基本的な笑い所は、成長がしっかり見えるだけに駄目なとこでると、「そんなにすぐは変わらないか」というのと「でもここまで出来るようにはなったんだなあ」というのが絡まって、大変趣深いです。初期の頃はハイヒールで山登りしようと言う無謀過ぎて無謀キャプテンだったノリコさんが、山装備をきっちり身につけて登るようになっていく辺りを見ると、人って変われるんだ、と素直に感銘を受けた次の瞬間に体力まだまだで返答が「へー」だけになったりするので、この揺り戻しによって「変わるのって大変やな……」と思ったりするのです。でも、やっぱり変わってはいるのは大きいなあ。いつか、5時間半のドハードコースに行くようになったりするんだろうかなあ。
 さておき。
 ノリコさんが高尾山に登る一因になった天狗との邂逅はそういう物としてはあまりでしゃばり過ぎないけど、決定的な要因として描かれています。子供天狗に友達として扱われて、というので良いガイド役としての天狗がマスコットとしても活躍、しつつも話の軸に新たな方向性を出したりしつつ、で、この辺りどうやっていくやら。本当に、この辺の内容軸の絡まり具合はいいものであるなあ。とかなんとか。