感想 双見酔 『セカイ魔王』3、4巻

 大体の内容「勇者と魔王とセカイのお話」。当初は勇者と共に旅する魔王、という方向性であったこの漫画も、徐々に様相が変化して、勇者と魔王のそれぞれの旅となっていきましたが、その道がまた交わり、そしてセカイ魔王という言葉に集約されていったのが、3巻及び4巻の流れなのです。
 3巻ではマオさんサイドが大分多くなっております。というよりはアルシャさんサイドが少なくなりまくっていると言えます。世界が徐々に魔物対人間という様相を呈し始め、そこここに勇者と呼ばれる人が生まれて、その中でマオさんが拳の勇者となっていきつつ、情報を仕入れていく形に、というのがメインとなっていきます。そこからあぶり出される様々な情報。その情報が重なり合って、4巻のクライマックスへと向かっていきますが、そこここで笑いとシリアスを交えつつ、この情報提示をやりきって、まとめきったのは卓越した手腕と言えましょう。始まった時はイマドキの勇者と魔王の物語の変調子でしたが、終わってみればこの漫画の唯一無二さ加減が際立ったかと思います。特に世界の成り立ちと勇者と魔王のシステム具合辺りは出色の出来。魔力が生まれる世界で、その魔力を処理していかないといけない、そこに集積する為の魔王が生まれ、それを除去する勇者が生まれる。というのは本当に変なシステムだ、というのがこの連載の中でしっかりと印象づけられているが故に、それをどうにかする為に動いていく流れはきっちりとしており、蓋然性というものが積み上がっているとはこういう事、と言えるでしょう。
 さておき。
 アルシャさん、最弱の汚名は返上で来ている、ような気がするのに、それでもアルシャさんの存在感というのがいまいちだったのですが、それでも4巻最後の方のアルシャさんは良かったですね。やっぱり若干蚊帳の外だった所が特に。世界の構築者、所謂神との対峙の場面でも何か言いかけるも「気が散るから黙っててください」とかマオさんに言われてれて落ち込むのもいいですし、ぽろっと出た言葉で一気に事態が解決に向かうのもまた。結局、そういう立ち位置がアルシャさんらしいと言えばそうでしょうか。でも、勇者として、人々の想いで力を増して、というのはなんか良かったです。本当に勇者なんだな、それも人にただの呼び名とされているのではない、本物なんだな、といいましょうか。
 対してマオさんはやっぱり優しい魔王だったなあ、と。元々魔王というシステムに抗う為に前魔王がお膳立てしたというのもありましたが、それでもマオさんとしてきっちりと立っていたなあ、と。前魔王の時は勇者と対峙しただけで闘争本能で殺す心になっていた、というのに、今回の相対では冷静に話して、冷静にする事を為した、というのも、やはりお膳立てがあった訳ではありますが、そこにマオさんの気質も混ざっていたと思うと、またそれがアルシャさんとの旅での培いもあったのではと思うと、あの何とも言えない勇者探訪の旅も、意味があったのだなあ、と思うのでありました。こういう積み重ねの上で、この漫画はきっちりと終われたのだ、と思うと、なんだかとってもありがたい気持ちになります。
 さておき。
 結末から少し後の描き下ろしは大変良い物でございました。人と魔物が共存出来るかもしれない、というのの一例として、今後歩んでいくのかなあ、と思えたりも。ジェントルとか馴染むのかなあ、と思ってしまいますが。どうやって生きていくんだろう、ジェントル。最後にジェントルの行く末を思ってしまうのも、この漫画らしさではありましょうか。あ、マオさんの衣装可愛らしかったですよ! と書いて締め。