感想 G=ヒコロウ 雑君保プ 道満晴明 『ジークンドー G=ヒコロウ×雑君保プ×道満晴明競作集』


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ジークンドー G=ヒコロウ×雑君保プ×道満晴明競作集 (REXコミックス)

 大体の内容「これだけ集まるとカオスしかいいようがないな!」。元は三者合同で出していた同人誌の集積体。それが『ジークンドー』な訳ですが、方向性としては頭の使い方がおかしいという点でのみ一致をみる三者が集うと言う時点で、同人誌の『ジークンドー』は生まれながらのPS、異能生存体、触れ得ざる者、そのどれもが奴であり、奴でないと言える。と銀河万丈ボイスで言いたくなるくらいに、あまりに間違った光り輝き方をしていましたが、それを一挙に集めると言うのはさながら蠱毒の粋を集めて作った更なる蠱毒という塩梅で、100倍希釈したところでたぶんあたまがおかしくなってしぬレベルの高濃度のかっとびんぐだぜ! 俺! そして地面に着弾。という内容になっています。何が言いたいのか分からないでしょうが、この味わいを簡単には、そして正気にては語れないのです。それだけ濃度があると思っていただきたい。そして読むなら覚悟していただきたい。そう、老婆心ながら思っての、この目くらまし文章なのです。
 とはいえ、三者三者ともにそれぞれ傾向がありますので、それに応じた対策を取っていけばこの危険な球もなんとかかんとか対処可能ではありましょう。ということで傾向についてと、その作者のこの一作を、というのをやってみます。
 それではいってみましょう。
 あ、順番は表紙等での並びをそのままでありまして、特に他意はありません。インドもありません。

G=ヒコロウ先生

 大枠の言い方をすると、いつもの、で済んでしまいます。分からない人には説明不足なんだけど分かる人には納得されるでしょう。とはいえ、後者のみを相手にするのはよくないので、ちゃんと前者に伝わるようにいうと、廃テンションでカッポレアモーレ、つまりテンション高めに無理を通して道理をぶち殺す感じです。エーデルワイス歌いながら動かなくなったゾンビ犬を執拗に殴ってる感じです。まだ虚空をなぐってないだけマシという、そんな危険な廃テンション。ちゃんと低めテンションもできるんだけど、でもやっぱり高高度で上げないと俺じゃないよな、という自負でもあんのかというくらいこの連作集でも上げ上げでした。このビックウェーブに乗れないと、この漫画の三分の一が付いていけなくなるので、頑張ってついていってあげてください。それでも無理なら、諦めてください。それくらいの覚悟がこちらにも必要なんですよ!←いきなりの逆ギレ
 絵柄面でいうと鋭角、というのが印象として残るのがG=ヒコロウ絵の特徴でしょう。絵が斜めにカクカクしているとかもありますが、シャープな構図が多いのも特徴。それが持ち前の埋めないと気が済まないのとミキシングして画面がうるさいのも特徴でしょう。そのうるささも、慣れてくると味わい深いですが、慣れないと画面見づらいになるだけ……。

この一作:腸語収録『ハイカラデッドサーキット』

 このゾンビ物というのを使ってどうするのか、と思ったら特にどうすることもなくヒコロウトーク、つまり意味不明で臨界点不明の言語の応酬をするだけという亜空の一品。基本的にゾンビである必要はある、ほんのりだけど、けれど、ゾンビ物世界である必要はないという、かなりギリギリの成り立ちで大変困りました。でも、なんか格好良く締まって終わっているので、G=ヒコロウ漫画としてはいい物ではないかと。オチが大体荒れるのがG=ヒコロウ漫画ですから、こうするっと終わると、あ、上手い。ってなんか諸手あげちゃいます。

雑君保プ先生

 ガチャガチャとおチャラけつつも、いつもどこかクレーバーな視線がある、というのが個人的な雑君保プ先生への理解だったんですが、それがこの競作集でとうとう牙をむいてきます。正直あれだけ基本的にギャグ漫画描きであり、おちゃらけのアトモスフィアを湛える雑君保プ先生の中に、これだけの牙が内蔵されていると言うのか、というのは薄々気づいてた、『そして船は行く』とかで仄見えていたんですけれど、ここまでガチ球出せるお人だったとは、と。でも最初おちゃらけて見せて、落とす、というのが、これまでおチャラけてたからこその効きで、それが明らかになって以後、その牙をどうするのか、と思ったらそれもちゃんとクリアしておられて、雑君保プ先生、今の段階が最も最も最も最も最も最も(略)恐ろしいマギーーーッ! なんじゃないかと。
 絵柄面でいうと手抜きっぽいアトモスフィアのある絵のおちゃらけ感が持ち味ですが、ちゃんと描くと結構上手いのも特筆点です。おちゃらけ絵のギャグ部分はちゃらけちゃらけてやはり印象が強いですが、このちゃんと描くと、が綺麗に決まるとそれゆえにパワーが大変溢れ出て来るのであります。この辺が見所ですし、ちゃらけた絵でも十分な力を出す所もあるので、わりとどの絵も気合が入っているのだな、とか。

この一作:コワコワ収録『三人のエンジェル』

 これですよ。この一作で、雑君保プ先生の俺の中でのイメージが一気に破壊されました。内容について触れると、僕の家には三人のエンジェルがいる、と言う内容で、そこで嬉し恥ずかしが展開される、などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。とパラガス声で冷笑してしまうくらいに、ごっついえぐい物をぶっこんできます。先に書いたちゃらけない絵で描いたその描写は胸糞悪くなること請け合いで、既に同人誌の方で見てて、個人的にはこれがこの競作集に入るかどうか危ぶんでいたんですが、ちゃんと入っています。大丈夫なのか、これ入れて。あるいは、この漫画買う人種にその程度のえぐみなんて屁でもないという想定なんでしょうか。間違っちゃいないだろうけども。

道満晴明先生

 道満晴明先生というと下ネタ。そういうイメージが個人的に脳みそにこびりついていて、だからそういうネタが少ないと「そんなバカな!」ってなるんですが、でももう一つの側面の透き通るような想いというのはしっかりあって、なのでああ、下ネタ逆に封印してるんだな、という理解がいいかと思います。そうは言ってもヤったりしてる奴もありますけども。後、ファンタジーなゴアゴアガールズ収録作とか腸語収録作でのゴアい感じもまた魅力であります。グロいんだけど、妙に爽やか。この辺は絵柄の問題というか絵柄の功績というか。
 道満晴明先生の絵って、とても筋が通っていると言うか、整理されているんですよね。余分が無く、余白がある。埋めよう、という意思があまり強くない。だからG=ヒコロウ先生が猥雑、道満晴明先生が透徹、その間が雑君保プ先生、という分け方も可能で、その意味においてはこの競作集でないと見れない並びなんだな、と。

この一作:ゴアよん収録『LIKE A ROLLING STONE』

 とてもお間抜けではあるんだけど、その気持ちというのが大変清くて、でも彼女はゴアゴアガールで、相手も相手で、というので大変胸がキュンキュンきます。収まりもよく、余韻もあって個人的に大好きなショートショート。こういう恋とか愛の話がしれっと、でも綺麗に決まるのが道満晴明先生の持ち味ですよ。

締め

「そうねえ、これ単行本化するの奇跡みたいなもんだから気になるなら手に入れるのがいいんじゃない?」
「そうですね」