感想 山口貴由 『衛府の七忍』1巻


(上記リンクが物理書籍のページ、下記リンクがkindle版のページのリンク)
衛府の七忍 1 (チャンピオンREDコミックス)

 大体の内容「怨身忍者、見参!」。天下の趨勢が決まった大阪夏の陣の後、天上大君徳川家康は豊臣残党狩りを開始。その過程で家康に刃向う勢力も当然のように潰していくことに。その為に手渡された覇府の印を持つ徳川の手の者が、そして扇動された民兵が、蹂躙する! しかし、それに抵抗する者あり。それが怨身忍者! そんな伝奇センスビシビシなのが、『衛府の七忍』なのです!
 さておき。
 山口貴由センスというのはどういう所から? というのは常々考えないといけないと思っていましたが、その解がこの漫画で大分得られるかと思います。それは『シグルイ』で鍛えられたしなやかな残虐性、時代物伝奇の経験値、シリアスへのひたむきさなどでありますが、それ以外の部分、山口貴由先生が元来含有していたエッセンスが、この漫画では静かに、しかし確実に花開いています。それが、山口センスによる台詞選びです。
 山口先生というのは台詞センスが元々は独特で、それは出世作覚悟のススメ』でも存分に発揮されていましたが、『シグルイ』の頃になると一つの落ち着きを見せます。うどん玉とかありましたけど、それでも作中の影響範囲では自然な台詞回しでありました。その後の『エグゾスカル零』でもそのセンス具合は抑えめ、これが僕のエクセレントさとかありましたけど、やっぱり作中の影響範囲内では自然な台詞回しでありました。それに対して『衛府の七忍』はどうか。というと安土桃山時代終期から江戸時代へという時代移行というのを加味しても変な台詞がぶっ込まれます。その一番はこれでしょう。


 なんでテヘペロやねん!

 この台詞センスですよ。そうあるべきベタな時代物の台詞ではなく、何故か現代的な台詞選び。これですよ。この何気ないコマの特に重要ではない場面で、これですよ。この独特なコミカルセンス。これが山口貴由センスであります。なんといいますか、どことなく読者サービス的にコミカル入れてるというのが、しかしその尖ったコミカルセンスの為にむしろ違う緊迫を孕む。ドがつく穢れ無き真顔でこういうサービスをされては、素直に楽しむのがむしろ難しい。そういうセンシティブがあるのです。これこそ、山口貴由! そう言いきってしまうのは早計でしょうか。
 そのセンスはこの話全体に横溢しています。その残酷に対するセンスは化外の民の虐殺シーンでの川に並ぶ首なし死体の山に。そのコミカルに対するセンスは細かい台詞回しに。それが混然一体となっているのが、『衛府の七忍』なのです。
 この話、なんかちゃんと続いてきっちりして欲しいなあ、という気持ちがふつふつと湧き立ちまくりんぐなのは、たぶんこういう無茶な、しかし伝奇的に正しい話が途中で終わると悲惨であるというのが身に沁みて、古橋秀之『龍盤七朝 ケルベロス』の頓死みたいなのになるというのが、分かっているからでしょうか。これ、七忍出るまでやっていくの? すげえ楽しいけど大丈夫なの? という老婆心からでしょうか。でも、それはとにかく、この漫画の今後は大変気になる所ですので、しっかり続けて欲しいと思うのでありました。