感想 阿部潤 『忘却のサチコ』4巻


忘却のサチコ 4 (ビッグコミックス)
(画像、文章、どのリンクも物理書籍のAmazonnoページ)

 大体の内容「忘却のサチコ 旅情編」。今回の内容をざっとまとめますと、

  1. めんそーれー沖縄に
  2. 新入社員がやってきた
  3. ウニを求めて北の地へ

 の三本です。来週もまた見てくださいね! じゃん、けん、ぽん! うふふふふ。
 さておき、一つずつ見ていきましょう。
 沖縄編は作家先生に執筆依頼の為に訪れて、でも先生居ないんですが!? という点からスタートして、どうしたものかという所で助手さんが登場。その言に従って沖縄のあちらこちらをうろうろする、という内容。ただ、この助手さんが曲者で、居ると思ったら居らず、居ないと思ったら居るという神出鬼没で幸子さんを翻弄します。この人何がしたいんだ? どうして先生とはこうも出会わないんだ? そしてそもそもこの人本当に作家先生の助手なのか? という疑念が読者側に出始めるも、幸子さんはそこに疑念は抱かず、ほいほい付いて行って、そして最終的に神木の前に立った幸子さん。そこで助手さんはいなくなってしまい、代わりのように出てきた老人に諭され、作家先生の居場所も分かるのですが。
 で、結局あの助手さんはなんだったのか。というのは精霊じゃねえか、というのが沖縄のおっさんの解答。それには確かにあの神出鬼没加減ならあり得るのかもなあ、という気にもなります。俊吾さん似だったのも幸子さんナイズドだったんだろうし。とはいえ、その辺を幸子さんは特に深く掘り下げない辺りがこの漫画らしいなと。まあ、飯漫画に精霊についてぐだぐだされたら困りますが。そして精霊だろうとなんだろうと、もっと肩の力を抜いたら? という言葉はちゃんと届いたのかどうか、という方が読者側としては気になりますが、これでころっと変わるならそもそも幸子さんじゃありません。でも、どっかでキーになりそうな所であります。
 新入社員がやってきた話は、ちょっと面白いと言うか、幸子さんとその新入社員小林さんが若干波長が合っているのではないか、と思わせる所があることです。どちらもマイペースで、どちらも生真面目。ただ、小林さんは社会人経験が足りてないから、幸子さんの域ではないというのがいいです。変な所でこだわるせいで、問題児扱いですが、案外仕事に対する意欲自体はあり、それについてちゃんと理解したいからこそ変な言動になってしまう、というのがこれ幸子さんが通った道なのかな、と。それだからなのか、小林さんと言い合いすると幸子さんはイライラして食に走ってしまいます。それがこの巻での旅情編とはまた違った趣を出していて、深みを与えていると言えます。
 最後のウニ! はまたぞろ二人で旅情したいという先生の意向を察せずに自分だけで行ってきます! と北の馳、北海道に向かった幸子さん。そこでウニドン、クウ! という欲求に抗いながら取材を続ける、んだけどやっぱりウニドン、クウ! が顔をもたげてしまって、取材に対する気もそぞろ。それを堪能するが為にお腹減ったを維持していたけど、食べないと駄目だ! ってなって結局食い過ぎるというポカも合わせつつ、でもウニドン、クウ! へと向かっていく訳ですが、このウニ丼編で面白いのは、今ウニ丼を堪能してきた、満足、したぜ……。って顔をしていたのをタクシーの運転手さんに見透かされ、更にもっとうんまいウニ丼がありますよ、と言われる場面。普通ならここで終わっても問題ないというのに、貪欲にもっと北の地のウニ丼を堪能するがいいや! というやけくそ感も若干ある展開。その為に、フェリーに乗って帰れない状況を作ってから事後承諾的に有給取る、という中々剛毅な行動に出た幸子さんの図太いんだか細いんだかな所がいいのです。食の為にそこまでやれるようになった、というのが幸子さんの小さな、そして大きな変化ですから。
 さておき。
 この漫画というのは食事を主体とする漫画ですが、料理対決とも料理うんちくとも料理作りとも隔絶しているのは先刻御承知でしょう。ただ食べる系と言っても過言ではない、シンプルさがあります。ただ、その中にあって一つのエポックだった『孤独のグルメ』ともまた違う味わいがあるのも事実です。『孤独のグルメ』は、基本的に食べるだけ、そこに余人の介入する場所はない。ただ、幸福に空腹を満たす時があるだけなのですが、『忘却のサチコ』はそれを更に進めて、忘我の境地へと旅立つ為の食、という位置にあります。いら立ちや思い出を忘れる為に、食べる。『孤独のグルメ』の食事も『忘却のサチコ』の食事も、どちらも癒しではありますが、より意図的に癒しを求めている、というのが『忘却のサチコ』の食への当たり方に影響があるようにも思えます。そして、ある種最終段階も、それゆえにあるのかなあ、という想いにも囚われます。俊吾さんが再び現れたら、はたして幸子さんはどうするのだろうか。その辺ですね。その答えが出てくるのか、ぶっつけ本番みたいな展開になるのか。どっちにしてもまだピースは足りてないと思うので、今後もじっくり見ていきたいと思います。