感想 柊ゆたか 『新米姉妹のふたりごはん』1巻


柊ゆたか『新米姉妹のふたりごはん』1巻
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 一、二言で表すと「ごはんの時間は大事なのです」ってなこと。親の再婚で唐突に姉妹になったサチさんとあやりさん。その二人の仲が食事を通して良くなっていく。それが『新米姉妹のふたりごはん』の大体の内容なのです。
 大体の内容がさっくりまとめられるくらい、ご飯を中心とした日常のお話主体なのがこの漫画。しかし、味わいは全く単調ではありません。この漫画のメインストリームであるご飯と、もう一つの流れである二人の仲の進展が巧みに絡まるのが、良いのです。それも一気に詰まることなく、じわりじわりと。
 特に姉となったサチさんがあやりさんが怖い! だったのが色々知っていくことで徐々に慣れて、そしてお姉さんとして引っ張ってあげたい! ってなっていくのがいいです。あやりさんの方が背も高いし、見た目しっかり者に見えるし、料理も出来るしでサチさん全然だったりしますが、それでもお姉さんらしく! とするサチさんの頑張りとか、勉強を見てあげる所とかは大変良いものでありました。ちゃんと接近していくために頑張る女の子っていいんですよ。


こういうことがするっと言えるのがサチさんのいいところ

 後、あやりさんもあやりさんで、サチさんがお姉さんとしているのに文句を言わず、というかむしろ姉が出来て嬉しい、一緒に食べる人が出来て嬉しい、っていうのが言葉からはあんまりされないですが場面場面でにじみ出ているのもいいです。


地味にこの漫画で一番重要であろうシーン

 特にこのサチさんに髪を結われた上記シーン以後、一緒に食べる為に作る時はその結わえてくれた髪留めを使って髪を結わえるようになっているのがいいんですよ。そして、その展開の状況からみて、どうも今までは髪を結わえてというのはしたことが無かった模様で、ゆえに髪を結わえる時というのが姉妹の絆として、ちゃんと言わないし語らない、ちょっとした所けど、でも見れば分かるだろ? という案件として立ち上がってくるのでありますよ。このさりげなさ! 素晴らしいじゃないですか。


 参考までに二話目の髪結いシーンを

 さておき。
 この漫画は作るー食べるー系漫画ですが、その中でも他とはまた違った味わいが、美味そうさあります。この本内のコラムでも書かれていますが、作れそうで、でもちょっと面白い作り方で、というのも確かにあります。しかし、それ以上にこの漫画の食事を際出せているのは、きっちり作り方をやっていくという進行にあります。


たまごふわふわ作りシーン


ネギ皮ソーセージ作りでの一コマ

 この実際に作っている、という過程がこの漫画の味わいを他とは異ならせている部分であります。尺の関係上、作っている過程をだらだら描けない場合が多い昨今において、その手順をレシピで済まさず、実際に作る過程を見せているというのが結構面白かったり。とくにたまごふわふわの回はわりときっちり作り方をやっているので珍しいなあ、という印象を持ちました。そこから、ご飯が美味そうに見える、架空の食事でもその過程が見えているからこそ美味そうさを感じられる、というのが立ちあがっているのかなあ、とも。結構面倒なことなのにきっちりやっているのはやっぱり好感に繋がります。故にいい漫画だな、と思うのです。今年末となってこれだけいい物が出てくるというのはしてやられた感じですよ。今年のベスト漫画、塗り変えないといけないな。それ程の出来栄えである、と思っていただきたい。
 それはさておき。
 この漫画の隠れたもう一つの肝というのがあります。それは黒ロン! あやりさんがベーシックな黒ロンなお人なんですよ! しかし、その黒ロンはあまりに黒ロン。実例を見ながら話しましょう。


微細ながらゆえのこだわりが感じられる

 このシーンは黒ロンの良さがしっかり出ているのであげますが、このこだわりが分かるでしょうか。
 解説しましょう。黒髪ロングというのがある種テンプレとして存在しますが、その内実をよくよく見れば、黒い髪の固まりとして黒髪ロングがある場合が多いのです。つまり、一つのパーツとして、黒ロンの形があるという状況です。しかし上記を見てお分かりになられるでしょうが、この黒ロンは単に黒い髪のパーツではありません。ほつれ、流れ、飛び出した毛先がそれとされるのを拒否しています。あくまで髪なのです。パーツではなく、髪。それが存分に出ているんですよハイパーン!(机打) 他の場面でもこのこだわりは全く揺るがず、ゆえにパーツならば電子でラクラクだけど、でないから作画面倒だろうなとも思うんですが、それが好きものには大変いい物として映るので、柊ゆたかせんせにおきましては今後もこのこだわりを捨てないでいただきたい、と思うのでありました。
 とかなんとか。