感想 乃花タツ 『なり×ゆきリビング』1巻


乃花タツ『なり×ゆきリビング』1巻
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「大人の同棲」。篠峰奏莉さん(女性)と佐藤雪さん(女性)の偶発的に起きた同居イベント。そこから始まる、大人な女性の同棲生活。それが『なり×ゆきリビング』なのです。
 と書くと百合なんですか!? という顔にすぐなりますがちょっと待とう。この漫画は百合漫画とも言えます。でも、もっと広義的に大人の同棲生活なのですよ。いやだから百合だろ? って言いますか? だからちょっと待って欲しい。大人の、同棲生活なんです! いきなり恋から始まるミラクルみたいなことは起こりません。そもそも同棲生活の流れが酒の席で「住ませてよ?」「……いいよ」という口約束からスタートというロマンの無さ。そんな中でスタートするのにいきなり百合っぷるになるわけねーだろ! クソして寝ろ! といってしまいたくなります。女性二人の組み合わせにいきなり百合を見るのは止めるんだ!
 とはいえ、性格も社内の評価もズレがある二人が、それでも一緒に住んでいくという中で色々気づいたり、歩み寄ったりしていきます。かなりさんは大雑把だけどだからこそ明るく人に好かれるタイプ。対してゆきさんはお堅く仕事も出来る才女。それが何の因果か同じ部屋になわけですが、そこで変にお互いを意識せず、でも全く意識しない訳ではない、お互いのことを徐々に好ましく思っていく。ってもそれは百合とは違うように、でもある種のLOVEではある。そういう単純に百合しないところにこの漫画の良さがあるのです。方向性的に百合を匂わせつつも、基本は大人なお付き合い。かなりさんがちょっと奔放なので大人だけどなお付き合いでもありますが、それでも大人スキルがしっかりあるからこその関係な訳ですよ。この距離感が素晴らしいのです。
 が、そこよりも地味に良いのが、お仕事漫画としての側面。大人ですから、どちらも当然仕事があります。同じ会社に勤める二人なのです。そこでの二人の評価はかなりさんが人柄推し、ゆきさんが才女。でも、二人の生活からその仕事場での振舞いを見ると、成程ちょっと違うんだな、というのが見えてきます。特にゆきさんは才女を通すのに苦労している部分が見受けられたり。でも、基本的には出来る女として待遇されていて、それに答えられるように、と頑張っていると分かると途端にゆきさんに感情移入ですよ。あるいは、かなりさんの仕事場での奔放さも、えと、ええと、あれ? この人やっぱり基本的にそんな変わってないや? というのが見て取れます。そう言う部分で仕事での鬱憤の種類もゆきさんとは違うんだろう案件なんですが、でも一緒に酒飲んだりスポーツジム行ったりしてそれを晴らして、お互いのことにとやかく言わずにいる仲良きことは、という状況です。同じ職場だからこそ、時間が噛み合うのがポイント。またボーナスで共に有頂天だったり、同棲バレて一悶着ありそうでなかったりというので、同じ職場というのが大変機能的に効いている漫画だったりするのです。こういう細かい所作が、この漫画の豊かさとして立ち現われていると言ったら言い過ぎでしょうか。
 さておき。
 この巻だと徐々に二人が仲良さが上がっていくので、後半になると大変いい具合に仲が良いんですが、それもこの巻最後の梅酒を漬ける回で一つ頂きに立ちます。ゆきさんが始めた梅酒造り、来年は最初から手伝いたい! の含意が深くなっちゃってる! ってかなりさんもゆきさんも気付いて、それにかなりさんがヤバいか? とドキドキしていたら、ゆきさんはそれもまたよしとするのが堪りませんね。ここまで詰まったかというのが。でも、百合ってわけじゃない。でも百合な感じがある。この絶妙な関係を今後も続けていただきたいものです。百合が嫌いなんじゃない。いきなり百合だって好きだ。でも、もうちょっとじっくりと進めて頂けたら嬉しいんです! そう言う漫画が増えるといいのですゥ!
 とかなんとか。