感想 アビディ井上&荻原天晴 『さぼリーマン飴谷甘太朗』1巻


さぼリーマン 飴谷甘太朗(1)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「甘味の為の甘美なるサボり」。切れ長で鋭利な印象を与える相貌に眼鏡を閃かす、仕事の出来る男、飴谷甘太朗。SEから営業職に転職した彼には、一つの秘密があった。それは、東京の甘味処を巡る為に、仕事をさぼっているということ! ということで、めくるめく甘味ワールドの深遠を見せつけられる漫画。それが『さぼリーマン飴谷甘太朗』なのです。
 この漫画の基本は、ベタ基礎は、所謂おっさんが飯を食うスタイル、つまり『孤独のグルメ』が道を作ったスタイルであります。そういう基礎は同じですがそことの差異は当然あります。一つは『孤独のグルメ』の井の頭五郎が個人商であるのに対し、飴谷甘太朗はサラリーマンであるということ。もう一つが、井の頭五郎の食風景はただおっさんが食らうだけなのに対し、飴谷甘太朗のそれは独特の心象風景で描かれる点です。一つずつ順に追っていきましょう。
 飴谷甘太朗は前述の通り、サラリーマンです。それも営業職です。そのことが、この漫画の特異な点として立ち上がらせるのです。内勤では休日にしか甘味処を巡れない。しかし、営業職なら、仕事のノルマさえこなせば、それによって空いた時間で甘味処にいけるじゃない! そういう理屈で、飴谷甘太朗は営業職を選んだのです。なので、題名の通り、仕事を、きちんとノルマはこなしているとはいえ戻っての仕事もあるだろうに、さぼって甘いものを求めると言うさぼリーマン行為をしている訳なのです。そこで浮かび上がるさぼりへの誘惑というのが、大変見ていて親身になれるというか、気持ち分かるなー、となるとかなり駄目社員なんですが、それでも仕事自体はきっちりこなして、その上でサボるというある意味筋の通ったサボり方をしているので、そう言う意味での憧れが浮かぶのもしょうがないと思っていただきたい。これで成績全然なら大変駄目なんですが、トップの成績を取っている辺り、飴谷甘太朗の甘いものに対する情熱の一端としても受け取れるものがあります。甘味を堪能することに対する一念で、ここまで出来るんだから大したものです。
 さておき。
 もう一つの特徴である独特の心象風景ですが、それについては画像を見てもらった方が早いと思うので、ピックアップしたのをどうぞ。


汁粉を食べた時の心象風景


きんつばを食べた時の心象風景

 ここには基本的に言葉はありません。食べている場面自体もそんなにありません。ただ、このような心象風景があるだけです。そこにある甘味に言葉は要らない、ということなのか、その甘味を表すには絵で見ていただくほかない、ということなのか。とにかくただそこにある独特の心象風景としか言いようがないアトモスフィアが、この漫画の一側面として屹立しています。正直切り立ち過ぎてどうすればいいのかしばし呆然としてしまう勢いだけがある絵でありますが、でもなんというか、美味かったんだな、尊かったんだな、という理解だけは自然と得心するのであります。言葉にならない喜びは言葉で表さない。そういう形だと感じました。ちなみに、挙げた画像は端緒であり、まだもう一段とんだ描写がされて更に困惑します。絵の力怖い。
 まあ、


たまに言葉を出せばこうなる

 ので、単に甘い物を食べるとSAN値が下がるという属性持ちなのかもしれないですが。
 さておき。
 個人的に1巻マスト回は豆かん三連打回。三か所の豆かんを食べると言うだけなのに、甘味の小宇宙に囚われそうになって危ない危ない、って二度もしておいて三回目は家だから捕まっていいのよー、ってなる匙加減と、やはり独特の心象風景でこちらを殴ってくる様、そしてあれの心象風景が、漫画ナイズドではなく飴谷甘太朗の実際の心象風景であると分かることなどが混然一体となって、変な愉快さを感じる回でした。ただ豆かん食べるだけでなんでこんな心象風景ぶっぱされないと、とも思いますけどね。
 とかなんとか。