感想 水瀬るるう 『ごにんばやし』1巻


水瀬るるう ごにんばやし 1巻
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「和楽器でバンド!」。というと他にも『なでしこドレミソラ』もそれに類する漫画となりましょうし、それによって今時代は和! とも言ってしまいたいですが、まあそれはどうでもいいんです。この漫画は、バンド活動したい! という芳文社的に何年も遅い発言を、しかし違うテイストでやっていこうとするものなのです。それが奏効するかどうか。それについて語っていきたい。そんな『ごにんばやし』なのです。
 女子高生がバンド、というのは先にも書いたように相当遅い、と言えるものであります。『けいおん!』から時が経ち、古びた、鄙びたようにすら見える着眼点です。
 しかし、そこに和楽器というエッセンスをぶっこむことで、そこにまた新しい息吹が吹き込まれているのです。まあ、同じ時代に同じことを考えた人がいるのは『なでしこドレミソラ』でも分かる通りなので、ある意味当然されるべき道筋だったと言えましょうか。
 そういうことはさておき、その方向性が奏功しているか、という話をしていきますが、それについては存外にイエス! と言える出来栄えです。
 まず水瀬るるう先生らしさが随所にあります。水瀬るるう先生については皆さんも知っているでしょうけれども一応書いておくと、『大家さんは思春期!』でそれがそうなる、という因果と応報という言葉だといかめしいので変えて、コール&レスポンスが上手い漫画さんです。こうあったら、こうなって、こうなる。という因果律の流れが淀みない漫画を描いている方であります。
 その、話の流れの持っていき方のうまさと、味付け自体はそれ程濃くないのに、いや、ゆえにしっかりとキャラクターの出汁が染み出ているのが、この『ごにんばやし』の妙味といえるところなのです。
 まず話の持っていき方は、当然卓越しておられます。バンドやろうぜ! から使う楽器を決めるまで3話掛けるじっくりとした立ち上がり。そこから使用楽器が決まって、更に練習して、メンバー募集して、という段階を、本当にきっちりと繋いでいきます。更にそれをしつつ、随所に小笑いを盛り込んで飽きさせない手管。まさし上手いというのはこういうものだ。という水瀬先生のルビカンテ顔が見えるようです。
 キャラクター面でも、主人公である亜子さん、美津江さん、しおんさんのキャラクターをきっちりと見せていく様はまさしく神妙。こてこてというキャラクターではないけど、でも出せる味はその辺のとは負けませんで! という誇りすら感じます。特に発起人の亜子さんは、発起して引っ張っていくだけあってパワフル。この子の動向を追うだけでも、十分に楽しい漫画に仕上がっています。まだ五人囃子の内、四人しか集まってないのが嘘のようですよ。ちゃんと揃って稼働しだしたら、どういう話を展開してくるのか。気になるなんてレベルではなく、万人が注目するに値するものかと思います。
 お話の方も面白い。この巻終盤ですが、バンドも出来てきて、イケてるかな? と思ったらちゃんとイケてるバンドを見て、亜子さんが感化されちゃうところとか、それで猛特訓して聞いて聞いて? してたら美津江さんのお婆さんの演奏でこの音がいいなあ、聞いて聞いてじゃだめだなあってなる場面が大変いい味わいなんですよ。
 この後にどうなっていくか、どうドライブしていくのか。皆目見当もつきませんが、この先は十分いいものだな。そう感じさせる一作であります。