感想 里見U 『八雲さんは餌づけがしたい。』1巻


里見U 八雲さんは餌づけがしたい。 1巻
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「高校球児を、餌づけ!」。と書くと若干以上に卑猥さを感じてしまうのは感受性が強すぎるからです。めっ!
 ということで、隣の部屋の高校球児にご飯を食べさせてあげる、というだけに見えて中々奥深さもあるのが、『八雲さんは餌づけがしたい。』なのです。
 この漫画は基本的に日常漫画類の食事系に属する漫画ですが、この漫画において食事というのはそれを作るのを見せたり、八雲さんが食べてうっとりしたりするタイプではなく、景気よくバクついてあっという間に平らげる高校球児翔平君の食いっぷりとそれをみてよっしゃ! となる八雲さんを見る漫画となっております。意外にありそうでなかった切り口ですが、その片輪である翔平君の食いっぷりは本当に気持ちがいいんですよ。体作りのために食べなければいけない、というのもありますが、それを感じさせない高校球児らしい食いっぷりは、まさしく見事。八雲さんならずとも喝采を上げたいところです。
 そして、もう片輪の八雲さんの食べてもらえることへの喜び、というのもまた、いいものがあります。八雲さんは妙齢というには若いですが、未亡人であります。だから、自分の作ったご飯を誰かに食べてもらえる、ということがしばらくなかったがゆえに、翔平君に対してご飯を与えるのが堪らなく心地いい、というよりは、嬉しいのです。そこが見えると、この餌づけ作戦がどういう方向に向くのだろう、という一種恐怖というか、敬虔なる畏れというか、とにかくどこまで餌づけするんだろうか、という疑問が出てしまったりします。この辺の寂しさがゆえの不穏さが、少しこの漫画を引き締めている感じにしているかと思います。お花見回とか、八雲さんはどうしたいんだろう、というのが特に出ている回なのでマストですね。
 さておき。
 つらつらと書いてきましたが、まだこの漫画の決定的な側面について語っていません。いや、実際のところはほぼ語っていますけれど、まだ取りこぼしがあります。それが、翔平君の幼馴染のルイさんです。この子がとてもいい。すごくいい。
 ルイさんについての情報を出しますと、ルイさんは翔平君の野球センスと素質を見抜いていて、それを日本球界に持っていけないのは損失・・・・っ! というので翔平君に野球強豪校への進学を父と一緒に土下座して頼み込むということまでしたくらい、野球好きです。お父さんの野球好きをそのまま受け継いじゃったパターンですね。ちなみにルイは一塁二塁の塁からきています。お父さんガチ過ぎです。そしてルイさんその通りにガチに野球狂に育ち過ぎです。
 で、そこまででも相当ですが、ルイさんは当然のように翔平とお付き合いしたいと思っておりますが、それの原動力が、上記の翔平君はわしが育てたであります。実際、幼少期から野球に目を向けるように誘導していた、というのでどんだけ幼少のころから野球狂なんだよこの子。と戦くばかりですが、それゆえにその言葉、翔平君はわしが育てた、を言いたいがために告白するけど、野球忙しい、でスルーされるという押し引きのバランスを見誤ってしまった典型のような状態に。他の男に目もくれず、翔平君を、というといじらしくも見えますが、そこにあるのは好きというよりは与えたものの回収の要素が強いので、そりゃ上手くいかんわ。とも思ってしまいます。でも、そのスタイル、嫌いにはなれない。翔平への好きと野球への好きが分かちがたくなっている、ということですから。そこがいつかウィークポイントとして立ち上がってくるのかなあ、とかなんとか書いて、この項を閉じたいと思います。