感想 山口貴由 『衛府の七人』3巻


山口真由 衛府の七忍 3
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「波裸羅、どう動くか!」。ということで、波裸羅が徳川に取り入ろうとする、かに見えたが、というのがこの巻の肝なのです。もう一篇、霹鬼編もありますが、そっちもそっとでどうなるんだろ・・・・。案件なのですけれど、まずは波裸羅様の話の方を。
 霞鬼たる波裸羅様編は、2巻最後でカクゴと波裸羅様が接触する、という手前くらいで終わっていましたが、今回はきっちりと相対して、戦っております。その前にちょっとした伊賀忍者のくたばりざまを見せられたりしますが、メインはあくまで波裸羅様。怨身忍者となったカクゴに全く引け劣らないその力を見せつけます、が、もう少しでカクゴを倒す、という状況になって、それを守ろうとするイオリの矢を受け、石化してしまう、と言う形に。この辺、イオリの方もなにかあるのか、と思わせるのですが、それはさておき、ならばもう一度、と石化の解けた波裸羅はカクゴとの戦いに向かいます。そこでお付をする猿蟹合戦組、本当にこう表現できる忍者集団、と一緒にカクゴを追うわけですが、波裸羅様、何かしら心境に変化が起きた模様で、そのカクゴによって試しわりの瓦としての強度を確認された猿蟹合戦組を、あっさりと屠ってみせます。という流れで本当に、どういう感情回路なんですか!? と『おひっこし』台詞も出るくらいです。でも、その辺の機微はなんとなくわかるような気もする、というフレーバーさなのが心憎い。無茶苦茶だけど、その無茶苦茶さも波裸羅の持ち味だし、その奥にまた違う心根というものもあるのだろう、という匂わせ方でもある。というので、今後カクゴとイオリとは別に、でもある目的をもってハララも旅をする形になりそうです。イオリから武田信玄の遺産や真田十勇士の話を聞いて嬉しそうだったので、そっちを攻めていきそうですね、ハララ。でもそうしないとこの漫画の強度がどうなっていくのか、とも思うのでナイス判断だと思います。とはいえハララがあまりに強いので、なんだかこの後が楽しみなのと不安なのとが入り混じってしまいます。どうにかパワーダウンするか、それとも他が力をつけるか、だろうけど。でも、この怨身忍者が一堂に、というのは見てみたいとも思うので、そこまで連載が持てばいいなあ、とか思ってしまいます。あとがきのアトモスフィアだと怖いなあ。
 さておき。
 ハララ編はいったん終了して、次の怨身忍者の登場です。沖縄、つまり琉球の怨身忍者、猛丸こと霹鬼! ということで、舞台は琉球となって、そこの土着の民である猛丸と、落ちのびた豊臣秀頼の従者犬幻之介の邂逅を中軸に、秀頼の危険さと琉球の解放さ、そして薩摩の石曼子の襲来を絡めてカタストロフへとじりじりと向かっていく話になっております。とはいえ、まだ次の巻でどうなるか、という段階なので、カタストロフの匂いがするだけですが。全体的に抑圧する体制側と、それに抗う力と、というのがこの漫画の、というか山口貴由漫画のベタ基礎ですが、今回の話では『シグルイ』並みの封建SMが発動していて、またちょっと違った味わいとなっています。舞台的に今までと違う解放感と、部分的な封建SM。それが混ざってケミカル反応を起こしているんですよ。これは結構面白い事案じゃねえか? とか。
 さておき。
 犬飼幻之介、隻腕の剣士ですが、そのしゃっつら、そして<流れ>を使う様から完全にスターシステムであり、まあ藤木源之助なんですよ。だから忠義の士であります。藤木が忠義の男だったかというと微妙ですけれども。まあそれは置いておいても、猛丸と幻之介の触れ合いと、涼千代のチルーとの触れ合い。それがそれぞれを癒すわけですが、でも幻之介の方はやばい系君主秀頼がやばいのが分かっているので、こんな空間にいたらあの方殺ってしまうぞ! となっていて、その辺の差が今後の展開にどう影響するのか、どっちにしても怖い展開しかないだろうなあ。色々無茶苦茶な展開になりそうだ。
 とかなんとか。