感想 沙村広明 『波よ聞いてくれ』3巻


沙村広明 波よ聞いてくれ(3)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「一大事件勃発!?」。と思ったらの展開が大変類を見ないというか、見てたまるかな、そんななのが『波よ聞いてくれ』3巻なのです。
 正直申しまして、2巻中盤までは「この漫画どこへ行くの……?」という戸惑いがありました。どこへ決着するか、というのはまだいいにしても、その道中で何をする漫画なのか。何をおっぱじめる気なのか。その辺がアイマイ&モコに感じられ、正直乗り切れていなかったりしました、それが、2巻最後の<波よ聞いてくれ>第二回放送のラジオドラマからの流れと、第三回の導入の怪奇事件とその顛末で、成程、と納得させられました。というか強引に、首根っこ掴まれて「分かったか? これだぞ? 分かったか? 分かったよなあ!」と脅されるようなので、分からされた格好です。
 ではそれは何か、というとミナレさんが一種の成り上がりをしていく漫画であり、その顛末の無茶苦茶さを堪能する漫画なのだ、ということです。わりと初期から分かっていた気がすることですが、それを個人的にようやく飲み込めたんですよ。いや、ある程度は把握してましたよ? なり上がるタイプだとか、顛末を見せるのだとかは。でも、ここまではちゃめちゃにしてくるとは。その土台作りがまず1巻2巻で、3巻から、特に怪奇事件からそのボルテージが最高潮に達したかと思ったら速攻しぼんでゆくという、矢鱈面白いんだけどミナレさんたまったもんじゃない案件とか魅せられて、成程、と。ここまでふり幅がある漫画なんだなと。そう理解したわけですよ。
 さておき。
 怪奇事件の話は本当に素晴らしかったですね。いい意味でも無茶な意味でも。怪奇事件!? と思ったら警察沙汰になって、「沙村漫画だしな……」と謎の有理解したところで、一段けっつまずいてオチへと向かう様は中々見られない、でも沙村漫画らしいというべき方向性でした。あんまり切迫されていうからヤバい案件かと思ったけど、調べたら、というどうしようもなさと、それについてミナレさんが話していた台詞にちゃんと伏線があった、というのとで、見事な仕事であると言わざるを得ません。こんなどうしようもないネタでその伏線張りは絶妙ですよ。どんなネタでも忽せにしない、という沙村先生の気概すら感じます。
 さておき。
 この漫画の主線が分かってきたので、それに対する副線の存在も良く分かるようになったのが、理解できたからこその喜びでしょうか。ミズホさんの恋路とか、麻籐さんがミナレさんに何を求めているのかとか、ミナレさんの微妙な三角関係とか、温泉で消えた女性についてとか。サブプロット的な部分がよりクローズアップされて、その分主線も見えやすくなってきたのかもな、とも。この辺相乗効果というか、くっきりしだしたがゆえに周りもくっきりとしているのかなと。そのおかげなのか、細かい台詞とかが大変面白味をもって立ち上がってきているのも、ポイント高いかと。そう! これこれ! この台詞回しの狂言回し! というのがいくつもありますよ。ミズホさんのミナレさんをあまり褒めていない気がする褒めとか、本当に素晴らしいです。パワーワードってこういうのだよなあ。とかなんとか書いてこの項を強引に閉じたいと思います。