ぱらのま 1 (楽園コミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)
大体の内容「可愛い娘は勝手に旅をさせよ」。ある女性が、勝手気ままに、思いつきでふらふらと旅をする漫画。それが『ぱらのま』なのです。
基本的に上記要約で大体の内容が表せてしまう、というわりと驚愕の漫画なのですが、旅というのが全て波乱万丈であるか、と起伏に富んでいるか、いう問い立てをすると、案外そうでもないな、というのが浮き彫りになるかと思います。この漫画のように、特にこれといった大目的が無いなら尚更です。
そうです、この漫画において、旅に大目的は基本的に存在しません。あるにしてもそれだけ!? という、旅というもののイメージが観光地を巡ったり美味しいもの食べたり、とにかく常時との違いを満喫するものと定義されていると、それだけ!? という驚愕に陥りがちです。
だが、旅と言うのはただなんとなくでもいいんじゃないか。なんとなくふらっと出かけてしまって、いいんじゃないか。日常の延長線上で出てもいいんじゃないか。そういうふるまいが、この漫画の特記できる点と言えるのです。名前不詳の女性が、ただなんとなく鉄道を使ったりフェリー乗ったり歩いたりで旅をする。そんな漫画なのです。
さておき。
kashimr先生というと皆さんはどういう印象をお持ちでしょうか。個人的な見解を述べるのを許されるなら、私は不思議な漫画家さんだと認識しています。突いてくるネタが、非常に絶妙にずれているんですよ。直撃でも逸れてもいない、でも直撃はないし逸れてもいる。書いている意味が分からないと思われますが、とにかくそんな不思議な、どこ突くねん! というタイプだと認識しているのです。
その玄妙な打ち筋はこの漫画でもきちりと健在です。先に書いたように、この漫画の旅情は特別の絶景とか格別の美味とか、そういうのではなく、そこにただあるがままのそれを、でも激賞するのではなく、ただあるがままに描く。という形で立ち上がっています。突如路面電車に乗りたくなったり、突如讃岐うどんが食いたくなったり、突如内川回しに今ならどれくらいで出来るかとチャレンジしたり。とんでもなくだから? な、それらが醸す、だからこその旅情。我々が平素思うような特別という旅情感ではなく、でもこういうのもありか、と思わせる侘びた旅情感なのです。この感じが堪らなく、心地いいものなのです。たぶんあfろ『ゆるキャン△』が好きな方なら問題なく楽しめると思う、という侘び漫画として高い称賛を、私はしたい。そう思わせる何もないが、あるのです。
さておき。
この漫画のもう一つの特筆点は、kashmir背景がふんだんに見れる、という点です。kashmir先生というと背景である。これは基本コンセンサスだと思いますが、それでも意味が分からないという方の為に一つ画像を見ていただきましょう。この漫画背景を語るうえで外せないワンショットです。
この画が『ぱらのま』では最大の力の入れ所であります。このめくるめく描き込み! 線の束が織りなす空間の描写! これぞkashmir背景の真骨頂です。これこそ、kashmir背景なのです。
全体的に見てここが一番熱量が高いですが、それ以外も十分に熱のこもった背景が描かれています。それも取り立てて絶景なところではなく、単なる田んぼだったり、工場群だったり。この気合いの入れ方の方向音痴具合! その方向音痴なのもまた、kashmir味であります。
この背景の味を皆が知れるのは良いことです。私はその味は『けいおん!』アンソロジーに収録されていたkashmir先生の『だいにけいおんぶ』で知りましたが、今から知っても何の問題もありません。基本的に変な漫画家としての知名度が高いkashmir先生ですが、この背景というのが描けるとこをもっと増やしてもらうために、皆もっと知ろう。kashmir背景!
という戯言をもって、この項を閉じたいと思います。