まず初めに
いつものようにネタバレ感想を書こう、と思ったのですが、食系漫画でネタバレとは一体、という気持ちが沸き起こりました。
特に、今回感想を書くうちの二作は「ネタバレ:美味い」しか無いような内容であり、ある意味においては食系漫画というのがいかな進化を遂げているのか、ということへのアンサーでもあるかと、勝手に愚考したりした次第です。
なれば、まともに書くよりは違う道筋を見せた方が面白いかな? というのと、なんか個別に感想書くのがめんどい、というのとがミキシングして、今回の三作まとめて感想になるのであります。思考がきっとごちゃごちゃしますが、そういうのを書いておきたかったんだ、というパッションのほとばしりを残すのが目当てなので、ぐたぐたでも気にしないでください。
ということで、それでは行ってみましょう。
その前に取り上げる三作を
以上の三点が、今回のまとめて感想の対象であります。それでは今度こそ、行ってみましょう。
まず『クミカのミカク』より始めよ
2巻感想を書いてないうちに3巻が出てしまった小野中彰大『クミカのミカク』ですが、基本的な部分、食を知らない宇宙人であったクミカさんが食の初めてを色々とこなしていく、という部分は特に変貌は無く、なんですが人間関係というのが地味に増えてきているのがこの漫画の彩りとなっております。2巻では、クミカさんを取り巻く関係が一気に進展するか、と思ったら振り出しに戻るという展開されてナンデ!? ってなりましたが、それはまあ済んだところです。
3巻での食面ではクミカさんがカレーといえど初調理、というのが、クミカさん宅のサップーケイを改善している皆の為に、というのとマッスルドッキング。大変いい話として立ち上がっていたかと思います。カレーを食べる初めてと言う部分も良かったです。カレーを全く初めて食べる、という心象風景をどう描くか、というのをきれいに立ち上げていたかと思います。
<初めて>というのが、今回の三作を繋ぐ縁であります。この『クミカのミカク』においては、食と言うのが全くの初めて、という奇異な漫画であるわけですが、だからこそその初めての描き出しが際立ってくるのです。3巻だとそういう初めてがあってこそ、周りとも打ち解けていく、という形で食で広がるものがある、というのをやっているのが印象的です。1巻最初のクミカさんからは全く思えないくらいであります。食と言う初めてを越えることで、クミカさんは一歩成長した、というと言いすぎかもですが、印象は変わったのは間違いないと思います。
さておき、次に。
回らない鮨黄金体験
食全体が全くの未知、初めて、と言うクミカさんみたいな人は現実にはいないかと思います。なにせクミカさん自体宇宙人ですから、そこまで拡張しないと、な案件です。
しかし、食を知っていても、案外知らない食の世界、という物はあるわけです。それの代表格なのが鮨。それも回らない、鮨屋の鮨。これはあるのは知っていても、中々そこへ踏み出すという勇気、あるいは金銭面というのが無いのが大体の人の実情です。
その割と多くの人において既知のない世界、鮨の世界へ飛び込むのが王嶋環『ごほうびおひとり鮨』なのです。
イントロダクションは、長年付き合っていた彼氏と別れることになった伊崎藍子さんが、傷心を癒す贅沢は何かと尋ねた人に鮨とミリ秒で即答されて、なら行ってやろうじゃないの! ということで鮨の奥深い世界へと入っていくという物です。
後は、鮨屋でそのハードルの高さゆえに色々と穿った目で見られがちな鮨の世界の素晴らしさ、奥深さ、そして親切さを見せていく訳ですが、これを見て本当に鮨屋いいなあ、という感を持てるかと思います。変な押し付けやぼったくりのような値段、高いのれんのわりにヘタな仕事、とかそういうのは全くない、むしろそのクオリティならこの値段以上出せますわよ!? というのを見せつけられます。鮨屋凄ェ! という鮨屋奨励漫画とも言えるのが『ごほうびおひとり鮨』の立ち振る舞いです。
この漫画の初めては、先にも書いたように鮨屋に初めて行ってみるというもの。その初めてさというのが映えるのは、伊崎さんの新鮮なリアクションがダイレクトなところでしょう。そして、鮨屋って一つ一つ、個性がちゃんとあるという部分を伊崎さんが気づいていく、と言う部分をもって、私たちに鮨屋の初めては店ごとにある、と気づかされます。それだけ、鮨と言う世界が奥深いのだと驚かされます。あまりに良いものに見えるので俺も行きたいなあ、とか言いたくなりますが、行ける場所が全くないから、王嶋先生いいなあ! ってなるばかりですけどね!
さておき。次に。
おもたせ! そういうのもあるのか。
おもたせ、という言葉を実はわたくしこの漫画で初めて知りました。大体の意味は持っていったおみやを使ってお接待、というもののようです。その、持っていったものを頂いてしまう轟寅子さんの手土産からの話、それが、うめ『おもたせしました。』なのです。
この漫画における初めて、というのは先のようにおもたせという概念を初めて私が知った、というのもありますがそれは全くの些事で、一番なのは寅子さんが持っていったものがおみや持ち込みされた人には初めての品で、ということです。人によっては色々と持ち込みとかあるだろうに、それでも全くの未知、というのが、この漫画の面白さなのです。
何が面白さか、というと、その人にピンポイントで行けるおみやを、寅子さんが知っている、という面白さです。色んなお土産という選択肢がありますが、基本的にそれほど多岐にわたるものは大体の人は持っていません。そういうお土産を持っていくのが半ば仕事のような雰囲気の寅子さんだからこそひねり出せる、様々なお土産。それが持っていった先の人に刺さって、そこからいろんな話が、というのがこの漫画の彩りであります。基本、相手に持ち込んで話して、で終わる漫画なのでそこの持ち込んだ後の話で広げないと、なのはありますけれども。
とはいえ、この漫画は中々不思議な所があります。不思議と言うと違いますね、謎がいいですね。謎があります。まず寅子さんが一体なんの職業に就いているのか。さくらさんという方のお使いをするのが基本のようでありますが、それが何の仕事からやっているのか不明。また寅子さんは全編において着物で過ごしていますが、その柄が大体違うので物持ちなのか持っている人からもらっているのか、という点。そしてなんでそんなにお土産になるものの知識が豊富なのか。その辺が全く謎いのです。お土産の件については、色々と知っている上に更に新規開拓にも意欲旺盛、と言う部分があるようなので、お土産選びが天職な部分があるようではありますが、それでも基礎がどうつくられたのかが謎です。
でも、お話はそんな部分はそれ程気にせず進んでいきます。その辺が開陳される日が来るのか。それとも食漫画としてこのままのノリで行くのか。その辺が魅せるところだろうなあ、とか。
まとめ。そうねえ。
と書くとあっさり終わってしまいそうなので斜線を引かないで、まとまらないまとめをしていきたいと思います。
今回の三作を強引につなぐ線は、<初めて>と書きました。クミカさんの食それ自体への初めて。伊崎さんの鮨への初めて。寅子さんから貰った物が初めて。どれも食の初めてですが、それぞれ位相が違うのが面白い所です。
そして、その初めてをどう活かすか、というのをどの漫画もやっているというのが特に見所であります。
食の初めてから人との繋がりへと向かっていくクミカさん。
鮨の初めてから鮨の素晴らしさへと向かっていく伊崎さん。
おみやの初めてから色んな話を引き出していく寅子さん。
どれも違うように見えて、突き詰めていくと食と人の繋がりというものが、そしてそれをどう作者の方々が考えているのか、というのが、仄見える。初めてだからこそ見える地平、とでもいうのでしょうか。それを活用して、食という一大エンターテインメントを漫画に落とし込んでいる。そう考えることも出来るのではないか。などと思いつつ、この項を強引に閉じたいと思います。予想通りまとまらなかった!