ネタバレ感想 山口貴由 『衛府の七忍』4巻


衛府の七忍 4 (チャンピオンREDコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「いきなり始まる『魔剣豪鬼譚』!」。ということで、忍者方向だけかと思われたこの漫画も、順当に剣豪に手を出してきました。今回出るのは当然のビックネーム、宮本武蔵! それが如何な展開をするのか? という話をしていきたいと思います。
と、その前にこの巻最初の霹鬼編に触れておかねばならないでしょう。皆殺しの現場となるところでタケルを犬と呼び、生き永らえさせた幻之介でしたが、そのタケルの処遇は犬にするにしても残虐非道なものでありました。最終的に素手で生き胆を取らせるという状態にまでなり、相当のグロになるのですが、それゆえにとうとう秀頼と主従の関係を断ってしまう幻之介。腹を半ばえぐられたその体とタケルのバラバラ死体とが結合し、怨身忍者霹鬼へと変貌するのでありました。
これだけの詰め込みのものが一話でなされるのが、霹鬼編の醍醐味と言えましょう。あれよあれよという間に展開されていくので、脳が理解する暇がないという乱打っぷりです。素手で生き胆をという内容とか、秀頼のそれで六十八まで!? とか、突っ込みを終わって初めて為せたくらい、怒涛です。終わった後に全て納得させられていたというのに気づきますが、それでもこれ以上の内容はないだろう、という妙な訳知り顔になってしまうのです。すんごいとしか言いようがないです。
そのすんごい後に始まるのが、『魔剣豪鬼譚』宮本武蔵編。一応、怨身忍者雹鬼編の一端なのですが、明らかに尺とノリが一端の域を超えています。この巻において雹鬼編の方が1回なのに対して、宮本武蔵編は4回。そしてどうしても宮本武蔵に感情移入せざるを得ないまたしても怒涛の展開。外骨格やシコメや怪力で積み上げられていく宮本武蔵の格。これで宮本武蔵が負けたら嘘やん! ってくらいに積みあがっています。でも、『衛府の七忍』としては雹鬼が勝たないとおかしいのであり、なのでこの後の勝敗が全く予想できません。史実とすり合わせるなら、ここで宮本武蔵が死ぬのもおかしい。島原の乱との繋がりも、この雹鬼と絡めればきっちりとする。とか考えだすとますます訳が分からなくなります。なんだこれ!
さておき。
この巻で特筆すべきは他にもあり、それがやはり山口貴由先生のサービス精神でしょうか。この巻ですと、チェストの解釈が一番濃いものがあります。先に霹鬼編でチェスト関ヶ原という隠語をぶっぱしておいて、その後更に島津家の人々がチェストチェスト言いまくります。そして最終的にチェスト精神が宮本武蔵にいきわたり、知恵捨てと見つけたり、という解釈がなされます。ある意味で兵法者である宮本武蔵らしい結実でありますが、これがどうなるのか、は次の巻に持ち越しです。焦れる!
そういう真面目なサービス精神もありますが、小ネタではかなり遊んでいるのが山口貴由先生の面白いところ。4巻では、雹鬼のお付きとなった3人の武将が『怪物くん』のドラキュラ、狼男、フランケンに該当する状態になっていることでしょうか。最初は全然気づかず、でもなんか既視感があるよなあ、と思いつつ二度目読んだら氷解です。明らかにドラキュラで、明らかに狼男で、明らかにフランケンなのです! でも、特にそういうことをしているとは言及していないし、分かればいいよ分かれば、といいたげなそっけなさなのです。この妙なサービス精神! もう、大好きです。
とかなんとか。