ネタバレ感想 九井諒子 『ダンジョン飯』5巻


ダンジョン飯 5巻 (HARTA COMIX)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「帰宅るまでが冒険です!」。ということで、ファリンを無事生還(?)させたライオスと愉快な仲間たち。しかし、ことはそう易々とは終わりません。まさに、帰宅るまでが冒険なのです。ということで展開の様相に大転換が起きたのが、『ダンジョン飯』5巻なのです。
今回の巻における大転換。それはファリンはなんとか生還させたものの、ライオス達が潜っているダンジョンを作ったとされる狂乱の魔術師によって、再びファリンは行方不明に、ということ。それを追いかけようとするライオスでしたが、様々な疲弊が表に出てきており、このままの追走は困難と諭され、地上に戻ることになるのでした。ここでのチルチャックの、このままだとこいつらが死んでしまう、というのが素直に出せていない、からのオークの頭領にそれを指摘されて、そしてライオスを諭すという流れがとても印象的です。何気にいい奴ですよね、チルチャック。まあ、モンスター食おうって段で逃げなかった辺りからわかっていたことではありますが。
で、帰宅の途につくわけですが、それは中々に容易ではありません。狂乱の魔術師がライオスたちの居る階をランダム変化するようにしてしまったのです。ランダム変化ってお前、ですが流石にこの規模のダンジョンを作るということが出来るだけはあります。ついでにというと、ですがマルシルがコカトリスによって石化してしまい、それの解除にも手間取ります。その間でライオスが魔法を覚えたらしかったり(その成功でマルシルが石化から解放された、と思われなくもないという描写ですが)、チルチャックが変化の法則性を発見したりなどの下準備はしてましたけれど、その影響でまた一悶着ある形になっていたりも。
その悶着の中心人物は、ライオス達に2度助けられたメンバーです。今回で名前が初登場だったりする辺り、連載の規模がどうなるか読めていなかったのだろうなあ、という謎の老婆心が励起しますが、それはさておきその頭目カプルーが、悶着の種を持ってきます。カプルー自体も相当の悶着の種になりそうですが、それ以上の種が一人。
それは、ライオスが前にパーティーを組んでいた相手、シュロー。以前の敗走時にパーティーから離脱した彼ですが、何故かなんか和なパーティーを組んでダンジョンに潜っていました。その理由については、カプルーは目星をつけています。それはファリン個人。つまり、シュローはファリンに懸想していたのです。そのことでライオスともめたりもしていたらしく、ということは今回潜っているのは、所謂ホワイトナイトというやつですか? とみられます。だからパーティーから外れたのか、という納得をしますが、これもここまで連載が続かなかったら無かったことになった設定かしら、とか嫌な視点もしてしまいます。でも、入れるタイミングが実際巧みで、九井先生も伊達に漫画描いてないと思わされます。
この厄タネがどのように転んでいくか、というのは続きを待つばかりですが、今回の巻で分かったことから勝手に類推してみましょうの時間です。
今回、狂乱の魔術師らしき人物が登場しますが、この人物は以前ライオスが入り込んで飯を食べようとした魔法の絵で登場して、ライオスのことを認識した人物その人であるようです。アイエッ!? 長命!? というのもエルフ種らしいので当然と言えますが、その行動、ライオス達の潜っているダンジョン生成については、今回示唆的な言葉があります。
それは、「デルガル」。
ファリンが探さなければ、と言った名前であり、狂乱の魔術師がこの地の全てはその人のものだ、と言い、後に国王陛下とつけた名前であります。ここから類推は開始されます。
狂乱の魔術師の本願、というのは前から気になっていました。マルシルが回想した魔術ビオトープの話の段階で、このダンジョンがそういう軸線上にあると感じていました。しかし、これだけの広大で練られたもので、一体何を為すのか。その点が全然わからんだったのです。
ですが、今回のデルガルという名と、それを探すという意味合い、そして4巻で語られた霊魂が残り続けてるというこのダンジョンの特性の三点によって、その辺がある程度見えてきました。
狂乱の魔術師の目的は、デルガル国王の復活。だけではなく、その王国の復活にあると思われます。
その証左は、狂乱の魔術師の周りに出たり、ファリンを止めようとしたり、窮地のライオス達を救った霊達の存在です。彼らは、冒険者の霊魂か? と言われるとそれは違うだろうと類推できます。狂乱の魔術師が気さくに話しかけていた時点で、冒険者達の霊ではありません。狂乱の魔術師が知っていて、そして場に留めた霊に違いありません。つまり、デルガルの国があった時代の霊、ということになります。デルガル自体の復活なら、これは無視してもいいはず*1です。それなら、魔術ビオトープもここまで大掛かりではないでしょう。
しかし、現実は大規模魔術ビオトープを作っています。つまり、王国自体を、王国民諸共復活させる、という目算があると見て間違いないでしょう。その為に、魔術の力で霊を消さないようにしている訳ですよ。その為の装置として、ダンジョンがある、ということなのではと。
で、デルガルの霊も、その中に含まれるのは論を俟たないですが、しかし不可解な点があります。それはファリンが、あるいは赤竜が言った言葉、「探さないと」で。
これは、デルガル国王の霊魂がどこに居るのか、狂乱の魔術師がつかんでいないということです。これが、もしかするとかなり悲劇的なことに繋がっているのではという予測を今、しています。喜劇的ですらありますよ、そうだったら。でも、そうならば、他の霊達がしていた行動にも納得がいきます。でも、そうだとするとかなり大事を片付けないといけないような。どうなっちゃうんだろう。
とかなんとかお茶を濁して、この項を無理やり閉じたいと思います。

*1:その時代の人間がいないとデルガルが寂しがるかもしれない、という思いがある可能性もありますが