ネタバレ感想 高橋慶太郎 『貧民、聖櫃、大富豪』1巻


貧民、聖櫃、大富豪(1) (サンデーGXコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「金こそは力!」。主人公、聖夜が突然出くわした異空間。そこでは聖櫃、アークを求める為の戦いが行われていた。その戦いに否が応もなく巻き込まれる聖夜。果たして彼女の運命は。と、軽く書き出してみるとディモールト良くある展開ですが、そこは我らが高橋慶太郎。凡百な内容になる訳がありません。この話を異質足らしめているのはずばり、金。その異空間での戦いには、膨大な金が必要なのです! ということで、バトルしつつ大金を稼ぐ経済活動もする漫画。それが『貧民、聖櫃、大富豪』なのです。
このマネーのカラテじゃねえマネーでの魔法が、聖櫃を手に入れる戦いでは必須。しかしこれには金がかかる。魔法は枚数制で、攻撃とか回復とかに買ったチケットを使う感じなんですが、これが本当に金額が莫大。攻撃4枚で300万が吹っ飛ぶ、と書けば、それ以外でもどれだけかかるか分かったものではないのが感じられるかと思います*1。なので、バイトするとか少額投資するとか、そういうのが全く意味をなさないのもお分かりいただけるかと思いいます。つまり、経済活動、事業をして、金をがっつりと稼がないとまともに戦えないのです! なので、聖夜は借金をして事業を始め、それが軌道に乗ったらその事業を売って違う事業に、という風に話が進んでいきます。他のマスターの方たちも、各々金を作る算段をしていますが、それがどのように絡まっていくのか、がかなり見せ場になるかと思うので、経済の絡まりが見せ場になる漫画、という謎の立ち位置に、今後なっていくかと思います。どんなトリッキーな漫画だよ!
さておき。
この聖夜の巻き込まれた戦いには、当然のようにサーバントというか、主に戦闘をする人たち、御使いがいます。これが地味に史実に入り混じっているのがポイント。聖夜の相棒はかのメディチ家のお人で、架空と実存が入り乱れている感じですがそれはさておき、この御使いは金に関係するのだ、となんとなく分からされます。御使いになる人は他にもパラケルススとかフィリップ4世とか、金に絡む人たちばかりです。そのせいでこの聖櫃の為の戦いに無理やり加入させられたというか、だからこそというか、業が深いというのがなんとなく見えてきます。しかし、聖櫃が手に入るとなんなのか、というのはよく分かりません。大賞として手に入るアークより、副賞である転生と、副産物の金の方にクローズアップがされている感じで、それがちょっと不穏なスメルを出していたりもします。こういうバトルロワイヤルものはそこがかなりキーなので、焦らしてくるんだろうなあ、と。
さておき。
この話は、陰惨になりそうなものなんですが、今の所基本陽性です。それは主人公たる聖夜がさぱっとした好人物で、あとメディチの人もさぱっとした好人物だからです。聖夜はまだ商売というか事業者としては駆け出しですが、メディチの人はさすがにその道のプロだったことはあり、的確な助言で聖夜を大事業主へと向かわせようとしています。この、基本前に進む以外にないというある種のどん詰まりなのに希望の仄見える感じが、この漫画を暗くさせない一助になっている感じですね。でも、色々と紆余曲折はありそうなので、それがまた楽しみです。バトルより経済活動の方が楽しみなんですよね、本当に。
さておき。
この漫画のバトルの方、手札制だから案外簡単にけりが付くのでは、と一瞬思うんですが、これは金で買うものです。そして大防御や大回復という、守りの札もあるのです。つまり、気を付けないと大打撃を与えても簡単に回復、あるいは防御されている場面もある、それも<買えば>無尽蔵に出来る。というのでこれで勝敗をどう決するのかが全く不透明です。簡単に死なないじゃん、それだと!
というとことで、泥沼っぽく感じる中で敗北条件がさらりと提示されます。それは、御使いが死ぬこと。それ自体はわかりやすいけどさきほど書いたように回復も防御もマシマシ。そんなのですりつぶしててもそう簡単に死なないじゃん! な訳ですが、その御使いの死、そこは一段ひねってあります。それは、マスターからの信用がなくなった時、なのです。
これは、中々面白いと思ったんですよ。つまるところ、それは信用によって経済の中で成り立っているものである貨幣が死ぬ、つまり金が死ぬときと同じなわけですよ。全ての力が金の世界で、その金の可能性がなくなった時のように死を迎える。非常に示唆的というか、らしい死だと思ってしまいます。これがどう描かれていくのかも含め、へえ、いいとこじゃないの。という感想がするっとでてこようものです。
ということで、金を稼いでバトル! という書くと普通なのに描かれているのはトリッキーな漫画な今作。どういう風に転んでいくのでありましょうか。大変楽しみに次の巻を待ちたいと思います。

*1:ちなみに小回復程度ならオートでできますが、これも金が逐一かかります