ネタバレ感想 吉野貝 『魔王が宿屋をやっていぬ。』1巻


魔王が宿屋をやっていぬ。 1 (MFC キューンシリーズ)
(画像がアマの物理書籍のページ。文章がKindle版のページに)

大体の内容「うむ! よくぞ生きておった! 衝撃の吉野貝!」。ということで、きららMAX誌で鮮烈なる漫画『軍師姫』を連載していた吉野貝先生が、コミックキューンに移っての連載漫画。それが『魔王が宿屋をやっていぬ。』なのです。
この漫画はぶっちゃけると無茶苦茶です。何が無茶かというとファンタジー漫画なのに現代的な物が多すぎます。スマホあったり、車あったりしますし、ギャルもいます。でも、当然のように魔法もぶっぱされまし、ギャルは賢者です。そこのファンタジーリアリティラインがずうずうなのです。最近ちょっとバズった異世界シャワー案件なんて、この漫画に対して言い出したら単なる狂人ムーブでしかありません。こんな漫画にマジになってどうするの。というレベルなのです。そこで、この漫画についていけるかどうかのジャッジがされる訳ですが、ついていけるとめくるめく吉野貝アトモスフィアにやられて脳がかなりの量溶けるという副作用があるので注意してください。用法用量を守らず一気に摂取してどうにかなっても知らんぞー!
さておき。
最初からいきなり読者ふるい落とし感のある文章書きましたが、しかしこの漫画についていくには一種の平凡な世の中との決別が必要なのです。要らないのですが必要なのです。現世とバイバイしてねー! 案件なのです。
それを乗り越えると、この漫画は大変に芳醇です。先のようにファンタジーとしては何かのタガか完全に狂っているのに、キャラの味付け、例えば戦士職にステータス全振りしたけど戦士はビキニアーマーしか装備できない、というくるくるぱー案件からのその姿を見せたら恥ずかしくてバーサーカーになってしまうという話へのつながり方の美しさとか、とにかく細かいバランス能力は異様に上手く、また線などが独特ながら可愛いと言えるという特殊な萌絵柄で、更にメインパーソナリティーであるサモエドフェンリルさんのもこもこ犬具合が堪らなく、一点突破できる力を三方向くらいにぶっ放して型を破りすぎにもの程があるのです。
ストーリーラインも独特のアトモスフィアとしかいいいようがないもので、宿屋を営むフェンリルさん(元魔王。色々あって現在やたらでかいサモエド)とそこの看板娘リリスさん(宿屋の為に働きたい。フェンリルさんがやたら構う)、という流れで宿屋ものかあ。と思ったらリリスさんは早々に職業、ゲーム系ファンタジーにありがちな、バトルに関する職種につくための学校に通いだして、色んな子と知り合っていく、と思ったらメインメンバーが即効固まり、ついでにサモエドは毎度毎度リリスさんに対して過保護し過ぎて学校から怒られないかこいつ、という状況に。そんなことをしつつ、やたらゆったりとしたテンポでかわいいをぶち込んできます。
だというのに、この平和な感じがサモエドが魔王じゃなくなったから生まれた平和で、それに対してサモエドも特に異論はなく過ごしている、というので、どうしてその領域に心が? 魔王だったんだよねお前!? という部分もきっちり残していて、なんでこの変な漫画でそういう部分期待しているんだろう。という謎の焦りすら生み出されます。本当になんだこれ。
話の方も本当に取るに足らないんですが、だからこそだろうがっ! ってコミックマスターJ顔出来る内容。大まかには無茶苦茶しているんですが、細かい所、例えばスライムの湖でのスライム一家の住処にかけてあった勇者の結界をリリスさんがあっさり越えて、しかしそれがとんでもないことだ、というのをギャル賢者の子がさらっと言いつつ、そこをフェンリルさんが解呪して追いかける、という三段階くらいで色んなことが展開される流れの自然さとか、本当に卓越しております。それでいて緩い話であるのは間違いないというので、なんだ、ただの奇才か。としか言いようがありません。語彙力が低下してすげえとしか言いようが無いです。
ということで、どんな漫画に今後なるのか、あるいはわりとすぐ頓死するのか。そこらも含めて先が気になる漫画です。頑張ってやって欲しい、吉野貝という漫画家がどこまで出来るのか見たい。そういう欲望があります。今もやたらゆったりしたままでもいいけど、どうしてくるか。って本当にこの漫画でえー!(水勝負なのに水道水で作られたと気づいた大谷日堂顔で)