野上武志『ガールズ&パンツァー リボンの武者』へのお誘い あるいは10巻感想にかえて

初めに

 この項は野上武志ガールズ&パンツァー リボンの武者』をお勧めするものです。基本的に『ガールズ&パンツァー』履修者向けですので、見たことが無いと訳が分からない部分が多いかと思います。つまり、今から動画配信で見たりTUTAYAでレンタルするなどして、見てくるのです。ALAS! 大丈夫、ガルパンはいいぞ。総計でも12時間もかからず履修出来ますしね。
 さておき。
 先に書いたように、この項は『ガールズ&パンツァー』は見た。だが『同 リボンの武者』は追いかけていない。という方に対して記述するものです。似たようなことは以前もしたのですが、

hanhans.hatenablog.com

 そこから更にスーパーガルパン大戦というべき状態に突き進んでしまってスーパーガルパン大戦EXとなっているので、そこがどうなっているのか、という点を重視してお伝えしていきたいと思います。
 ということで、それではいってみましょう。

まず押さえておくべき部分

 そもそも『リボンの武者』は『ガールズ&パンツァー』のスピンアウト作品です。時系列としては『ガールズ&パンツァー』TV版終了してから『ガールズ&パンツァー 劇場版』の頃を通過して、『ガールズ&パンツァー 最終章』以前の辺り。つまりアフターガルパンにしてビフォア最終章と言えるでしょう。
 そして、乙女たちが戦うのは、戦車道、ではなく戦車戦。強襲戦車競技、と書いてタンカスロンというものです。戦車道と違い、重量以外ほぼルールは規定されていない、まさしく無法地帯のような荒っぽい戦場。そこに、この漫画の主役であるしずか姫と鈴さんが躍り出る、というお話となっております。

f:id:hanhans:20181223211139p:plain
リボンの娘がしずか姫。その下が鈴さんです。百合百合しておられますね?

 サクッというなら、戦車で乙女たちが戦う、というガルパンの基礎はそのままに、それよりもより泥臭く、より熱いバトルを繰り広げる、といったものとなっております。
 これくらいの基本が分かっていれば、ガルパン履修者なら問題なく入っていけるかと思います。

今から入れる! タンカスロン大会<大鍋>! 一回戦について

 さて、そろそろ今回の本筋に入りましょう。先に書いてあるように、以前にも『リボンの武者』のお薦めは書いていますので、今回はそれとは違うアプローチをしてみようかと思います。
 ということで! 「今から入れる! <大鍋>(読みはカルドロン)」! と題して既刊10巻までのタンカスロン大会<大鍋>の要点をつらつらと語らせていただきます!
 タンカスロン大会である<大鍋>、そこで名だたるガルパンキャラが入り乱れて戦う訳ですが、それだけでわりとお腹に溜まるのに、これが中々に一筋縄にはいきません。
 まず1回戦は1チーム対1チームのバトル。これだけなら通常の戦車道と差がないですが、ここに二つの要素が加わることによって、カオスな状況が生まれてくるのです。
 まず一つは、用心棒ルール。これはどこの誰でも一輌だけ助っ人として招聘出来る、というルール。これがどういう事態を巻き起こすか、というのは一戦目のしずか姫VSアリサさん戦で如実に表れます。

f:id:hanhans:20181223211828j:plain
そうきたかー

 かようにドのつくカオスっぷりに。これにしずか姫の計略の一端も噛み合って用心棒を先手を打って無効化しているんですが、それにしたって一発目からこれですよ。
 とはいえ、この用心棒ルール、単に伏兵という訳ではない、というのが1回戦後半で例示されます。

f:id:hanhans:20181223211841j:plain
船! そういうのもあるのか

 ダージリンも賛美するこれを、ほぼオリジナルチームがやってしまう、という辺りにこの漫画の小憎らしさが表れていますが、それはさておき。そういう方向性なこのルール、今のところ1回戦だけのネタっぽいのですが、3回戦目、おそらく決勝でまた復活するかもしれません。そうなった時、この船のような用法を持って、何が為されるのか、というのが今の所の勝手な楽しみな点の一つとなっております。杞憂で終わりの可能性もありますが!
 それはさておき、もう一点、この大会の混沌具合を増させる要因があります。
 それは、勝利したチームが、敗北したチームを引き入れられる、というものです。

f:id:hanhans:20181223213415j:plain
アリサさん、しずか姫の軍師になるの巻

 それが何を意味するか、諸賢にはお判りでしょうがそれでも書きますと、最終的に大隊を率いる形になる、ということです。この漫画、ただでさえサンダースからマジノまで、既存キャラ全登場のスーパーガルパン大戦状態なのに、この<大鍋>最後には、劇場版を超えるスケールの戦いが待っている、という訳ですよ。それだけでも滾るものがあると言わざるを得ません。
 それ以外にも震えてしまう内容もあるのですが、それは次の2回戦についての項でするとして、他の1回戦でピックアップするべき点をさらりと。

f:id:hanhans:20170802050745j:plain
不屈のオレンジペコ

f:id:hanhans:20170802050756j:plain
友情のローズヒップ

 この漫画はガルパンアフターとは先に書きましたが、アフターの意味は単に『ガールズ&パンツァー』TV版以後というだけではありません。西住みほ1年生時代アフターという側面もあるのです。本筋の方では最終章で大洗生徒会組が卒業を迎える、という側面はありましたが、それが他の学校でもある、という部分をきっちりしてくる。そういう意味で、ガルパンアフターなのです。それを感じさせるのが、ボンブルのヤイカ(しずか姫のライバルめいた立ち位置)に敗北しても、まだ不屈を見せるオレンジペコと、それを後押しする友情のローズヒップ。次代の息吹を感じさせるに十分なところであり、この『リボンの武者』の見どころの一つと言って差し支えありません。こういった趣向が、他にもちまちまと、でも確実に含まれているのが、『リボンの武者』のよい点なのです。
 そこを認識しつつ、2回戦の話に行ってみましょう。

今から入れる! タンカスロン大会<大鍋>! 2回戦について

 f:id:hanhans:20181223212307j:plain
えーっ!!

 ということで、2回戦の方はいきなりバトルロイヤル!  試合時間は24時間! しかも、2回戦で戦うと思っていた相手との合同チーム! ということで、いきなりのサプライズになった第2回戦は、これまた色々な見せ場のある戦いとなります。
 それが特に顕著なのは、西住仮面として登場している西住まほさんに関連する動きでしょう。ここが、『リボンの武者』らしさとガルパンアフターらしさが同時にある、大変見所なのです。

f:id:hanhans:20181223212331j:plain
f:id:hanhans:20181223202646j:plain
ああ、そうか。もう公式戦とかが

 この場面の黒森峰の人たちの感慨は如何ばかりか。もう受けることはないかと思っていた、あの西住まほ采配が、再びですよ。再び一緒に戦える訳ですよ。
 実の所、成績だけでみると、まほさんは自分でも以前韜晦してましたが、無能な隊長になってしまうんです。

f:id:hanhans:20181223212429j:plain
事実だけど、本人の口から言われるとインパクトが

 でも、それだけが真実じゃないのは、黒森峰次代の面々にはわかっている。だからこそ、次代の自分たちはしっかりしないといけない。でも、今また再び、一緒に戦える喜びは、ですよ。この辺、本編でしなくていいのか案件ですが、あるいはこの漫画があるからこその受け皿として機能しているとも言えましょう。
 そういう情緒面でもガルパンアフターらしいですが、『リボンの武者』としての見どころ、バトルな展開にも、まほさんの番は用意されています。
 それが、しずか姫との対決という形で見せられます。

f:id:hanhans:20181223212443j:plain
顔こええよ!

 ある種頂上決戦みたいな小競り合いですが、ここの勝敗が複雑なのがいいですね。まほさんを撃ったのは、という部分が単に目の先の勝ちだけが勝利じゃないと分からせる、というのとか、しずか姫がどこを見ているかとか。
 そう。しずか姫の戦いには、ある目標があります。まだ明確に口にはしてないのでこちら側の憶測ですが、それは西住みほに槍をつけたいというものか、と。その線上に、姉であるまほさんはいるのですが、それがまほさんとしては我慢ならぬ訳です。それを個車技で見せつけつつ、味方の態勢を立て直す時間をつくる、という西住流らしさも見せつける。そういうバトルなのです。
 この二者の戦いは9巻のメインイベントとなりましが、試合は24時間。まだまだ出てくるネタの宝庫となっております。まほさんもそうですが、様々なキャラクター達が、様々に色んな事に直面するのです。
 その中で、カチューシャさんの活躍というのは大きいです。チーム的には知波単などを組み込んだ大所帯ですが、その知波単がそもそもガンというか、いつもの吶喊癖が治らないので扱いに四苦八苦している、と同時にカチューシャが色々と教えている形になっているのが興味深いです。

f:id:hanhans:20181223212458j:plain
立ち位置が劇場版のあひるさんチームめいているというか

 後、カチューシャさんが一番この第二試合について、脚本的に考えさせられているのも興味深かったり。他のチームがわりと軽々にこの試合に乗っているけど、カチューシャさんはダージリンさんの思惑に考えを巡らせていたりするのです。それは読者の誰もが思っている、あいつ結局何したいの? という部分に深くかかわってきますが、これは結構色々情報は出ているので、皆さんも読んで類推してみるといいと思います。
 そんな<大鍋>二回戦は、まだ始まったばかり! という形が現在です。そこまでを押さえるべき点について語りましたので、最後に10巻の概要と感想を書いておきたいと思います。

10巻感想のような

10巻の方は、9巻の小競り合いムードから一転、激しくかち合う形に。

f:id:hanhans:20181223212515j:plain
この小ネタでいきなり噴かせてくれるから、この漫画侮れない。つか、コブラじゃねえか!

 ネタはさておき、視認が難しくなる薄暮の刻から、夜にかけての夜戦へと、試合は変遷していきます。そして状況は錯綜し始めますが、西住仮面奪還から事態は、皆お疲れモードとなって一旦静まります。
 しかし、そうは問屋がダージリン。この試合のもう一つのサプライズ、鬼チームの登場だー!

f:id:hanhans:20181223212531j:plainf:id:hanhans:20181223212546j:plain
まさかの、鬼がこの人たち!

 1巻で単なるモブかと思ってたらその後もちょくちょく出てきて、で9巻で何者なんだろうこのお姉さま方、と唸らされた方々が、鬼チームとして参戦!
 正直申しまして、鬼チームは大学選抜のラインか、あるいは西住流出てくるの!? と思っていたんですよ。しかし、この漫画はそんな妥当な線なんて聞きやしねー! とばかりに、このお姉さま方を歴史を背負わせて投入してきました。
 最初に出た時は単なるモブババアだけど、ちょっと何か狂ってないか? と思わせていたのが、ここに来て功を奏するという完全に訳の分からないものですよ。そのお姉さま方の、しかしてその実態は! なんとタンカスロン第一世代! 草創期の方たち! という、ある意味この流れに投入されるなら当然と言えるべき背後関係です。ここまで計算して出していたのか、作者サイドが盛り上がっちゃったのかは定かじゃないですが、しかし、その強さは西住流&島田流家元が、そして、しずか姫が鬼と呼ぶ折り紙付き。実際に破竹の勢いで場を荒らしていくその様に、お姉さま方おっかねえ! という恐怖を呼び起こすには十分なものがあります。
 ということで、試合の方は鬼によって混乱の巷となった訳ですが、そこにあってダージリンさんは己の目指す戦車道を見出します。

f:id:hanhans:20181223212652j:plain
見えたぞ、水の一滴!

 これだけの混沌とした大会を、それもミカさんが看過していたように、優勝とかに目的がないという状態で進めていたダージリンさん。ある意味このタイミングを、自分の気づきを待っていたというのでしょうか。基本的にそれは迷惑行為ですよ! と思うんですが、ある意味この漫画の裏の主役であるからこそ出来るムーブです。完全に目一杯にそれを押し通すんだから、流石のダー様としかいいようがありません。『リボンの武者』でついた策士フェイス面目躍如です。

f:id:hanhans:20181223212707j:plain
でもこの顔は完全に悪役ですよ

f:id:hanhans:20181223212720j:plain
それ以上の悪役顔というかほぼ獣顔もいますが

 さておき、<大鍋>二回戦、これだけ混沌としてもまだ時間としては半分ほど。これからどうなってしまうのか、全く予想が出来ません。これ決勝とかじゃないというのがその部分への畏れを誘発します。いまここでもえらいこっちゃなのに、最後どうなっちゃうのー!
 というフリを置いて、この項を閉じたいと思います。