アイアン・ゴーストの少女 1 (ビームコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)
大体の内容「三家本先生、新シリーズ!」。一大シリーズと化した『血まみれスケバンチェーンソー』も終わり、次の動向が気になっていた三家本先生の最新作。それが『アイアン・ゴーストの少女』なのです。早速くっちゃべっていきましょう。
まず、アイアン・ゴーストとはなんぞや、というのがこの漫画のキーポイントであり、この漫画をトリッキー為さしめるだろうと予想される部分です。アイアン・ゴースト。それは鋼鉄人形に幽体離脱した魂が入り込んだもの。鋼鉄(アイアン)に幽体(ゴースト)でアイアン・ゴーストな訳であります。この鋼鉄人形でバトルを繰り広げるのが、この漫画ということになります。
この鋼鉄人形に幽体離脱した魂が、というのがまずポイントであります。まず、魂が抜け出た体はどうなるか、という点ですね。当然、魂がないので動けません。ぱっと見気絶の状態になってしまいます。これがかなり危険な状態である、というのは主人公側ではなく敵側の人間がその問題を突かれてしまう、というのでまずさらっと見せてきます。主人公もアイアン・ゴーストの状態で長く動きたくない、というのをまたさらっと言っているので、無防備な体を狙われる、というリスクがきっちりとあるのが示唆されている訳です。ここがこの漫画の一つのキーになるのかな、とか。その辺でどう立ち回るか、というのが今後見られるのではと期待しております。
さておき。
三家本先生というと荒っぽいキャラ、というイメージがあるかと思います。前作である『血まみれスケバンチェーンソー』のギー子、あるいは『サタニスター』のナックルスター、あるいはそれらに出てくる奇人物怪人物。そういうのがインパクトが強くてどうしても出るのが粗暴感あふれる主人公だよな、という理解になりますが、この『アイアン・ゴーストの少女』の主人公たる甘里ミオは基本的に粗暴ではありません。むしろ学級委員長的生真面目さがあるタイプです。この点で今までとは行動基準のアトモスフィアが違ってくるんですが、そこがこれまたこの漫画のキーになる部分だと思います。その生真面目さが、毒を食らってしまった先生を見過ごせないと危険な行動にうって出したりします。しかし、この生真面目さというのが逆に危ない人物として甘里ミオを立ち上がらせたりもします。情報を吐かせる為ならどうやら手段を選ばないっぽいとか。今までの粗暴主人公ならそらそうよ、だったんですが、生真面目さのある甘里ミオがそれをする、というのが大変怖さを助長します。そもそもアイアン・ゴーストを駆って他の邪悪なやつらを誅している、という段階でまだ高校生が……。な案件。それも初めて間もないとかじゃなく、相当強くて手慣れている。そこもまた、あの生真面目な甘里ミオに何があったのかと、その過去を考えさせずにはいられません。
考えずさせずにいられないというと、三家本漫画につきものである、この漫画における不憫枠の弓月マリアさんの今後がどうなるか、考えさせられます。アイアン・ゴーストを嗅ぎ分ける力に優れているから欲しがるアイアン・ゴースト持ちが多いけど、基本一般人なせいでそれを拒否るのは不可能というか拒否ったらタヒぬ、と甘里ミオに言われてしまって知らなくていいこと知った感じなのが本当に不憫です。その内精神を病むんじゃないかと踏んでいますが、三家本漫画の人は基本精神的タフネスが巻を重ねるごとに強靭になるので、案外なんとかなるのかもな。と勝手に留保をもってしまうくらい不憫です。なんで彼女はあんな目に……。
さておき。
この漫画は三家本漫画なので、当然ストーリーのダイナミズムが素晴らしいです。ダイナミックでありつつ、流麗でもあります。出てきた強敵アトモスフィアの相手がミリ秒で小物に変転したりしますが、それでいてストーリーラインを見れば大変美しい軌道なのです。一話目の何が起きているんだ何が! な展開とか、本当にいいものです。そういう見せるところをきっちり見せて、語るべきことを語り、しかしまだ語らない所は語らない。特に甘里ミオの過去などには触れない。ちゃんと取っておきつつ、それ以外の部分、弓月さんとか敵対組織とかの紹介でしっかり話を構築する。マジで魅せ上手です。この美味さなので、甘里ミオの過去話はたぶん相当でかいネタ。それをチラ見せしながらきっちり語ってくれる日を待ち望むばかりです。と書いて、この項を閉じたいと思います。