ネタバレ感想 山口貴由 『衛府の七忍』5巻


衛府の七忍 5 (チャンピオンREDコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「山口先生は地獄を揺らしておる……。ヘルシェイク山口……」。
相変わらず高高度でとんがった漫画な『衛府の七忍』ですが、今回はちょっと山口先生の何かのねじが上空高くぶっ飛んで最終的に月にぶっ刺さっている感じをみてしまう、それが『衛府の七忍』5巻なのです。
今回は大きなくくりで二つの話になります。前巻からの続き『魔剣豪鬼譚』と今回からの『人間城ブロッケン』の二つですね。一つずつ見ていきます。
『魔剣豪鬼譚』の方は、4巻で溜めた宮本武蔵の業を一気に解き放つ、かに見えたのですが、ここで紆余曲折が絡んで思わぬ方向へと進みます。
お付き三人との闘いで一気に溜めを解放し、そのまま雹鬼へと向かうのか、と見ていたら、その雹鬼との闘いはとてもあっさりと終わってしまいます。雹鬼たるレジイナが、見放されたと思っていたイエスを武蔵の二天一流に見て、その刃を甘んじて受けてしまうのです。そこから、話は転じていきます。そして山口先生の冴えが見られるのです。
突如登場したレジイナの父との闘いの中で、それを己が父とをだぶらせてしまう武蔵。その迷いと、それを振り切ろうとする力とがせめぎ合う中で、かつて佐々木小次郎を倒した<神童殺し>が飛来、その力と迷いを振り切る力によって、勝利をもぎ取ります。この一回レジイナの死で目標を失った力が再び励起する流れ、というのが美しく決まっております。
その上で、吉備津彦がまたしても、今回は見ているだけでしたが登場し、<鬼哭隊>を組織し始めている、という話と、それに宮本武蔵はふさわしかろう、という見定め。ついでに伊藤一刀斎氏家卜全という老剣客がその一員である、まで数ページでやりきるというジョブも見れて、これもまた美しい。
そして最後に、宮本武蔵島原の乱を繋ぐ運命の糸を、武蔵がレジイナのロザリオを首にかけている、という描写でさらっとみせてくれて、成程、こうつながるのか! と事実ではなく完全な創作だけど、だからこそだろうが! なものを見せていただいた心持ちになります。本当に見事過ぎます、山口先生。
さておき。
『人間城ブロッケン』の方は、これはもうどういう話になるのか全く方向性が見えないというか、ガジェットである舞六剣のスケールがとにかくおかしすぎます。衛府世界では強化外骨格があるという設定ですが、それをありにしてもそのデカさは常軌を逸しており、というか舞六剣が軽く小山レベルの代物、というだけでこれをめぐる争いの決着が見えません。起動キーと、起動時の頭、それがそれぞれにある状態で、果たしてこれはどういう形に収まるのか。全く分からないと言えます。
しかし、『人間城ブロッケン』はある意味山口先生の技と業というのがしっかりでている状態です。長年漫画を描いたがゆえに高まった残酷無残の力と、初期の頃にあったスケールの野放図さが、一つの重なりを見せている状態なのです。ある意味では、『人間城ブロッケン』の展開次第で、今後の山口先生の趨勢が決まってしまうのではないか。とすら言えるでしょう。それくらい、がっつりと技と業がガブリ四つなのです。
一人の漫画家の一つの到達点として、『人間城ブロッケン』はメルクマールだと、勝手なことを言いながら、この項を閉じたいと思います。