感想 市川和馬 『見上げればいつも妹が。』1巻


見上げればいつも妹が。 1巻 (まんがタイムコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「偉大な小さい兄と偉大な大きい妹の話」。
最近になって親が再婚。そして兄妹になったツブテ君さん(29)と遥さん(17)。一回り年が違う二人ですが、ツブテ君さんは遥さんよりも背が小さくまた童顔な為、遥さんに弟のように扱われることに。そんな二人の日々の話。それが『見上げればいつも妹が。』なのです。
この漫画について語る時、それは大変滋味溢るるものだ、という言い方になってしまいます。全くと言っていいほど派手な話はありません。遥さんがツブテ君さんを弟扱いし、ツブテ君さんがそれに対抗するように兄らしさを見せようとして逆に年下っぽくなってしまう、というのをベタ足つけて、きっちりと仕上げている漫画だからです。掲載誌がまんがタイムなので、派手さがないというのは当然でありその通りでありますが、それにしたって波乱要素が全くありません。本当に兄妹の交流をベタなところできっちりと描いているだけなのです。
ここで、それ、だからこそだろうがっ!! とコミックマスターJ面になってみたいと思います。子供っぽいけどしっかり社会人なツブテ君さんと、それを弟のように扱い、また他人に特別な関係かと聞かれて「弟にしたい」と答えるくらいの遥さん。この二人の関係性と交流を見ていくだけで、この漫画が成り立つということそれ自体が、とんでもなく偉大なことなのです。如何にまんがタイム誌が派手さを求めてない部分があるにしても、ここまでベタ足をつけてやるとなると、大御所レベルの仕事なんですよ。相当の力が無ければ、これを読ませるというのがいかに難しいか。だというのに、この漫画はその領域へとずかずかという言葉がよく似合うくらいに足を突っ込んでいます。蛮勇という言葉すら、浮かんでくる状態です。
で、それで読ませるかというと、これがきっちりと読ませてくれます。急造の兄妹ではありますが、生活の中でちゃんと家族としての絆は生まれて、それがきっちりと話を展開させる見えにくいけどしっかりとある力として具現しています。特に、遥さんが大学受験で悩む回と、大学受験が終わった回ではそれが顕著です。
大学受験で悩む回は、遥さんの心の琴線である、お姉ちゃんと呼ばれたい欲求をくすぐることで解決するんですが、それを、今までお兄さんとして認められたいとしていたツブテ君さんが言う、というのが大変良いものでございます。それで見る見る調子よくなる遥さんも大概ですが、ここはそれでも遥さんの調子を優先するというツブテ君さんの心意気を見るべきですよ。兄として出来る事なら何でもする、というのを実際にした訳です。それがお姉ちゃんと呼ぶことであろうと! 全く、ツブテ君さんいいやつです。
大学受験が終わった回も白眉でしょう。合格し、それを両親に報告すると、ツブテ君さんと離れて暮らすか? という選択肢が生まれます。そこで遥さんが選んだのは、というのはまあ書かなくてもここまでで予想は出来るでしょうが、しかし二度目のコミックマスターJ面で、だからこそだろうがっ!! と言ってしまいましょう。この漫画をその部分まで読み進めていれば、ここの納得具合は弩級のものがあります。その回でもきっちり、そこへ至る解法が、夢で最初にツブテ君さんと出会ったところを思い出す形で並べられるので、尚更倍率ドン! であります。ハッピーバースデー! 素晴らしい!
さておき。
メインはツブテ君さんと遥さんで、他にネームドはちらちらとしかいませんが、ワタクシ、その中でツブテ君さんの後輩の女性、大杉さんが好みです。遥さんと初対面から気が合う、という段階でどういう趣味なのか理解されるかと思いますが、実際にツブテ君さんのことを「目の保養」と言ったり、いつか着せられたらと思っていたのか可愛い系レインコートを用意していたりと立ち位置が大変いい傍観者ポジの方なのです。彼女の視点が職場で入り込んでくることにより、ツブテ君さんの可愛らしさがどこでも発揮されるという味のある配役として大変好きなのです。後鼻血キャラですしね! 鼻血キャラはいいぞ……。ぱっと見、出来そうな女史がするといいぞ……。
という変な視点をくくりつけて、この項を閉じたいと思います。