高橋慶太郎 『貧民、聖櫃、大富豪』4巻

貧民、聖櫃、大富豪 (4) (サンデーGXコミックス)
貧民、聖櫃、大富豪(4) (サンデーGXコミックス)

3巻の感想:ネタバレ感想 高橋慶太郎 『貧民、聖櫃、大富豪』3巻 - オタわむれ 日々是戯言也blog
 大体の内容「『信用金庫編』、突入だわー!」。ということで、信用金庫編、スタートです! というのが、『貧民、聖櫃、大富豪』4巻の内容なのです。
 とはいえ、承前があります。3巻で聖夜さんが4000万を支払った会社が倒産、新会社に強引に吸収という憂き目にあった訳ですが、これは全然問題なく処理されます。理由は。アウレリアさんが為替でガッツリ稼いでいた! からなのです。そーきたかー、ですが、為替の方をする、という話は3巻でちゃんと伏線として張られていたので納得出来るものであります。しかしその後に、速攻で吸収をやった会社を買い叩くという展開に。こういうところで無駄な時間使ってる暇ねえんだよ! と言わんばかりのスピード感です。遅くしても仕方ない、ビジネスのシビアさということですけれども。ついでに、これでこの仕手戦を仕掛けた門倉&祢津組に、前に借りてた2000万はチャラだろ、ということにもなり、関係性に複雑さが生まれてまいりました。その上で更に誰が御使いを得ているか、というのがほぼ全員が分かってきた形になってもまいりまして、今後がカオスになるなあ、という理解でおーるおっけー、な状況となっております。
 そして、実際にカオスな展開となってきているのが信用金庫編。地場の信用金庫が、ちみっこの策謀で倒産危機に。安倍野さんは一度は潰れるならそれでよし! としますが、そこに聖夜さんが絡んできて……。という展開に。
 この話で面白いのは、安倍野さんの立ち回り方です。聖夜さんは頼まれて信用金庫の再建をしようとしますが、対して安倍野さんは倒産しても問題ない派。でも、ちみっこが経済圏を牛耳るのは見逃せない、という立場。そこで、聖夜さんが本当に再建出来るか、というので試しをしたりします。それは裏の世界で豪華客船を沈める対決! そういう、御使い戦の使い方があるのか! というエウレカ案件であります。というか、わりと融通効くなあ! あ、結果の方は当然の流れでありました。
 それ以外でも、ワンサイドゲームになりそうなところに安倍野さんがちょっかいをかけてうやむやにしたりもしており、自身もお邪魔虫だと発言するのにふさわしい立ち回り方です。これも最大攻撃力なちみっこを上手く退場させたい、という思惑ではありますが、それでも重要な調停者となっているのは、中々面白い。バトルロワイヤルものとしてだと、あまりない立ち回り方であるとも。勝利もしたい、でもY-SAC、横浜特別自治市もちゃんと軌道に乗せたい、というので、単に勝つ、単に生き残るというだけじゃないのが、良い感じに枷になっていると言えましょう。おかげで、この漫画が単なるバトルロワイヤルものとは一線を画しているのだから、この設定考えただけで勝利まであるくらいの、見事さな立ち回らせ方であります。
 さておき。
 高橋慶太郎先生というと、キャラの表情が印象的な漫画家さん、というイメージが個人的にあります。『ヨルムンガンド』でも『デストロ246』でも、印象的な表情、特に怖い顔は多かったと思うのです。それについての『貧民、聖櫃、大富豪』は、というと、それらとはまた趣きが違うけれども、巧みな表情、微妙なあわいのある表情をきちんと描いていらっしゃいます。特にこの4巻での、聖夜さんに信用金庫の再建を、という話に対するフワさんの、興味ないわー顔の本当に興味ないなこいつ! と言いきれてしまうくらいの茫漠とした表情が最高でした。これが心どこにもあらず! 人はここまで興味がないのを表情で出せられるんだ! という驚愕込みで。それ以外でも、信用金庫の理事長になる、という政治的な話に、政治にも金融にもいい想いがないのに、という聖夜さんの表情と、それでもする、と決意した後の顔のコントラストもいいのです。今まで派手な表情がいい、と思ってたけど、こういう細かい表情もいいんだ、というかなんというか。いい気づきになりました。『デストロ246』再読しよ。
 とかなんとか。