よしむらかな 『ムルシエラゴ』13巻(ネタバレ強め)

ムルシエラゴ(13) (ヤングガンガンコミックス)
MURCIÉLAGO -ムルシエラゴ- 13巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 大体の内容「<剣聖>編、完! そしてシナリオは暗部へと」。単行本換算で2冊分の内容であった<剣聖>編が完結し、そしてじわりとこの漫画の暗部が露呈し始めたのが、『ムルシエラゴ』13巻なのです。
 ということで、今回で長かった<剣聖>編も一段落。姉妹百合エッチはあるんですか!? と超錯乱した頭に、ですよねー! な納得エンディングは超効きました。姉人格の方のスキルに妹の体はついていかない! というのは本当に盲点で、それと藍子さんのお姉さんムーブで姉が納得の精神的撤退=その人格の消滅をする、という切なさにやられましたよ、ええ。しかし、これ人格は消えたって言ってるけど、妹の危機に唐突にポップアップしてくる可能性は微レ存!? という気も。出てきたらそれはそれで藍子さんの命が、ちゃんと妹を守れなかったじゃあねえか! って感じになって危ないかもしれないですけれども。
 さておき。
 <剣聖>編の大立ち回りの方は、黒湖に超有利な盤面での戦いだというのに剣聖の方が押していた、という、ある意味でこの漫画のバトル面の限界点の一つとなる、まさにメルクマールでありました。というか、凛子ちゃんさえ動員して二対一になっても強かった、って剣聖強過ぎです。その人格は消滅したとはいえ、本体たる妹にそのスキルが伝達されてたら、という視点もありか。となってしまいます。ぶっちゃけ使い方次第では剣聖と同じ動きは出来る、って証明だしなあ。
 という与太はさておき。
 <剣聖>編は、最後に一つ置き土産をしていきました。藍子さんと凛子ちゃんと剣聖妹玄流さんの三角関係です!(鼻息荒く) わりと百合関係でもまっすぐな往来が多いこの漫画、まっすぐっても某爆弾魔のそれみたいにねじくれきりはてまくりんぐし過ぎて最終的にみるとまっすぐになっているのもありますが、とにかく三角関係みたいなものは今までありませんでした。そこに、百合の三角関係が勃発! しかも、どちらも人殺しである、という点も相まって、そのエモーショナルなところがはちきれんばかりです。あの人は人殺し、でも私も人殺し。そう言う部分で凛子ちゃんが今までの自分の犯した罪に対しても、多角的に見る視点を得た、というのもまた、いい。黒湖は息をするのと同じレベルに自然と人を殺してしまうし、そもそも良心の呵責という視点を持たないというか、持っていたら雨の日の誘拐犯とかをあそこまで無残に殺せないだろうし、というので、ちょっとその部分へのアンチテーゼとして担がれてきた格好です。そこはガンガンに放置するのかと思ってたので、そういうのをぶっこんでくるとは、と。鶴さんの復讐の話も、そういうのだったんだな、と今気づいたりもしますが。そういうのは主人公がしろよ! というのがジョークになってしまうから困る。
 そういう引け目もあるから、余計に玄流さんに辛く当たってしまう凛子ちゃん……。このことは藍子さんには言えないし、黒湖はそっち方面では頼りになるけど絶対頼ったらダメだし、そうなると他に誰にこの気持ちを諭してもらうのか。自分だけで。百合三角関係、それも色々とコングロマリットしているのを、解決しなくてはならないのか。いくらなんでも凛子ちゃんの歳でそれは辛そうだよなあ……。これもまた今までになかった軸線ですね……。
 さておき。
 <剣聖>編が終わり、次の話に突入していく、ある意味いつも通りの展開ですが、次の編は少し特殊な流れに。ワンクッション置いて、<死が2人を分かつまで>編へと向かいますが、そのワンクッションがまあ多弁でありまして。
 <死が2人を分かつまで>編自体も、薄気味が悪い雰囲気で突き進む、ある意味でホラーの方向性な編ですが、その前の特に編ではないけどな、<棺>と<胎動>の二編は意味深です。<棺>の方は<薔薇の牢獄>編で死亡したゴールドマリーさんの死体が、無い! という回で、<胎動>の方は<死が2人を分かつまで>編への胎動を見せる回です。直截な回の名前ですが、どちらも<死が2人を分かつまで>に連なる、つまり、「そうか、そういうことか!」なので、これも<死が2人を分かつまで>編との連なりにある回であり、地味に捨て回じゃないのです。
 さておき。
 この巻において一番意味を見せるのは、<棺>回でしょう。ゴールドマリーさんが先生と言っていた、死体隠滅と血液補充と養分の一挙三徳なことを考え出したっぽい人の正体が判明するのです。すっかり忘れてたよそんな伏線! ですが、ちゃんと再提示されるので安心です。それはさておき、その先生というのが、どうも悟姓のあの人の模様なのです。そして、<死が2人を分かつまで>編のキーパーソンでもある、という形ですが、<薔薇の牢獄>編に絡んでいる、ということはこの漫画の端緒である<チェザーレ>にも絡んでいるのと同じこと。つまり色々とまいていた要素が一気に集約されてきた形です。話が、案外近くで固まるのかしら? そういう危惧も持ってしまいます。もうちょっとは見ていたいんだけどなあ。
 さておき、<死が2人を分かつまで>編で何者かに連れ去られてしまった桃山さん。果たして彼女は無事なのか。そして下水道に巣くう者は何なのか。その正体から、悟へとたどり着けるのか? 大枠の話にとうとう肉薄していくのか? と期待しつつ、この項を閉じたいと思います。