吉田創 『ガールズ&パンツァー プラウダ戦記』1巻

ガールズ&パンツァー プラウダ戦記 1 (MFC)
ガールズ&パンツァー プラウダ戦記 1 (MFC)

 大体の内容「ガルパン前史! そういうのもあるのか」。『ガールズ&パンツァー』で人気のあの二人の、入学から頂上取るまでの軌跡。それが『ガールズ&パンツァー プラウダ戦記』なのです。
 前史! ということで、プラウダと言えばなカチューシャさんの、入学から勝利までのお話、になるだろう作品が、この『ガールズ&パンツァー』スピンオフ、『ガールズ&パンツァー プラウダ戦記』です。
 今までのガルパンスピンオフは様々な手管、あるいはマジノ、あるいはアンツィオ、あるいはヴァリアンテ、などがありつつも、過去については触れない方向で話が進められてきた、という印象があります。過去話はあるにしても、ワンエピソードに軽く振りかけられる程度、というもの。しかし、この『プラウダ戦記』はガチに『ガールズ&パンツァー』前史、あるいは西住みほ時代前史を描こうとするものであります。
 前史! と何度も言ってしまうくらい、結構大事だと思うんですよ。ガルパンは案外具体的に描写されてない部分が多い話です。特に西住みほ時代前史は、色々あった、という以上の話はされない形です。それを活用して、色々な間隙を作って埋める、というある種のマッチポンプさすらある。そこに、この『プラウダ戦記』がぶっこまれるわけですから、ぶっちゃけ何をされているのか分からなくなるのもむべなるかなです。何されちゃうのー!?
 さておき。
 『プラウダ戦記』はその名の通り、プラウダの全国大会優勝への道筋を語る漫画です。その核となるのは、ご存知“地吹雪のカチューシャ”。なので、この漫画のスポットライトはカチューシャさんに当たります。アニメの方だとやたら偉そうなちびっこ、という印象なカチューシャさんですが、漫画の方ではほぼ不退転戦鬼と言っていい存在になっています。主席で入学したカチューシャさんは、プラウダで戦車道全国大会優勝を獲得する為に、上級生には侮らせる為に下手に、同級生には反抗の御旗となるようなムーブで、それぞれにアプローチをかけます。冷酷! 残忍! その俺が黒森峰(おまえ)を倒すぜっ! というレベルでガチのムーブのカチューシャさんの覇道、これがどうなるかと言うのが見どころの一つであります。
 さておき。
 カチューシャさんと言えば、当然ノンナさんとの仲な訳ですが、この二人の邂逅と仲の進展も、この漫画のするムーブとなっております。お互いに、たっぱのせいで馬鹿にされたり無理やりまとめ役をさせられたり、という貧乏くじを引いた二人が、そのお互いの内実を話し合って、仲間、ではなく同志になる、という流れは大変美しかったです。そこが、この巻のハイライトと言ってもいいでしょう。尊い
 ですが、この流れの少し前に、カチューシャさんとノンナさんが喧嘩して、でもちゃんと話をしないと、とノンナさんが逃げるカチューシャさんを追いかけるんですが、そこの逃げるカチューシャさんの小手先の罠テクニックでその才気を見せつつ、追うノンナさんがひたすら身体能力で押していくというのを同時に魅せられる場面も地味にこの巻のハイライトです。お互いが持つものが違う、というのをこうも端的に魅せるとは! でも、ちょっとノンナさんのフィジカルおかしくね? 高1でしょ? な場面でもあります。一応、そういう訓練をしてきた、大きくて頼られるだけの人物になろうとしてきた、というのがあるからでもあるので、本当にこの漫画のテクニックにはやられます。
 さておき。
 この漫画はガルパン前史なので、当然上級生がいる、以上に、当然他の校の1年生にあのキャラが! というのをやってきます。この巻ではほぼ一コマという出番ながら、やはり天才か。とさせられる黒森峰の西住まほさんもそうですが、ここはやはり聖グロリアーナのダージリンさんの、そのまだ初々しいところが見られるのが大変良いものかと思います。
 1年ながら、聖グロ隊長のアールグレイさんの世話役となっているダージリンさん。ここではまだ才気の片鱗はありつつも、未熟な者として描かれています。まあ、未熟に見えるのはアールグレイさんがちょっと所ではなく変な人なせいもあるのですが、ここはそれでもダージリンさんの才気を見抜いて、全体を俯瞰してみられる将へと導こう、としているアールグレイさんの立ち回り辺りに、この漫画がどこまでやる気なのか、という部分への敬虔なる畏れが浮かんできてしまいます。
 アールグレイさんの見抜くセンス、というのは実際かなり高いのは、ダージリンさんを導くそれから分かりますが、それがちゃんとカチューシャさんにも向けられる辺りも、成程、この人見る目あるわ。と感じさせる部分です。練習試合での勝利の絵図を、一瞬とはいえ狂わせたカチューシャさんと出会い、謙遜するそれをブラフと見抜き、そしてそのままだと危うくなるかもしれない、と講釈までする。見抜いてやがる! と言えましょう。ここのムーブで、アールグレイさんのことが逆に色々分かる、というのがまた素晴らしい。どういう人物が好きなのかとか、その講釈には自分の過去のことが含まれているのかな? とか。アールグレイさんがその短い登場で一気に好きになってしまいましたよ。この漫画、やる。
 ということで、ガルパン前史としての存在を、全く一瞬にして築き上げた感すらある『プラウダ戦記』。決着は既に決まっていますが、その過程がいかなるものになるのか。すげえ気になるので早く続きをください! 俺に生きる実感をくれ! と兼人ボイスしながら、この項を閉じたいと思います。