ネタバレ感想 九井諒子 『ダンジョン飯』8巻

ダンジョン飯 8巻 (HARTA COMIX)
ダンジョン飯 8巻 (HARTA COMIX)

 大体の内容。「6階、一筋縄では」。突如何かの症状に苛まれ、一旦小休止となったライオス一行。流石に食あたりの可能性は高すぎるなあ、とライオスが思っていましたが、その症状はそうではなく……。ということで、初手から搦め手で攻めてくるのが、『ダンジョン飯』8巻なのです。
 その症状、というのはチェンジリングの効果で身体が変化していたサイン。それによって元の種族とは違う体になってしまったライオス一行ですが、最初はこれ結構いけるかも、と過信してしまいます。ライオスはドワーフになって、流石に力が違う! ってなります。しかし、それぞれの種族がそうなっている、その理由を理解していくうちに、このままじゃまずい! となってワタワタ。ついでにガーゴイルも出てきてさあ大変、というのが砂地が水を吸うように、自然の速度で読者に理解させられます。早くもなく、かといって遅くもない。まさに理解出来る速度で理解出来る情報を理解出来る量で。
 ドワーフが何故薄着なのか、とか、チルチャックが何故前線に出てこないのか、とか、エルフの魔力が如何に大きいのか、とか、そういうのを探索したり戦闘したりという部分の隙間隙間にきっちり入れつつ、あ、これやばい。と読者側に理解させ、更にその解決の糸口からの小ネタの効いたガーゴイル戦、というのを、マジで過不足なくやってくるのです。毎度毎度凄みが増している『ダンジョン飯』ですが、ことここに至ってこの淀みの無さ。まだ昇れる余地があるんだよ! という九井てんてーの向上心の高さに目がくらみそうです。
 この高み具合は、地上付近のあのダンジョンぶち壊し隊とカブルーの一悶着、そして狂乱の魔術師との対峙の場面でもう一段上がっていきます。
 ダンジョン1階に巣食い始めた人たちを、さあどう追っ払おうか、からの狂乱の魔術師との対峙は、しかし突発時。巣食う人たちを追っ払おう、としたダンジョンぶっ壊し隊の前で巻き起こる、巨大歩き茸による混乱! 胞子を吸ってしまった人たちの中に、狂乱の魔術師がいる! とダンジョンぶっ壊し隊隊長は予測し、その発見をカブルーに。からの、その突発的発見。そして微妙に噛み合わない会話からの、ファリン登場! で、もう場がぐちゃぐちゃです。ちょっといっぺんに色々起こり過ぎているんですが、それでも全然納得して読める、というもうほとんど魔技というレベルに九井てんてーが到達しているので、もりもり分からされます。コワイ!
 さておき。
 魔力が薄い、というので厄種のファリンは大きく動けず、なのでこれで終わりだ、と誰もが思って、そしてそれを一番強く思ったカブルーが、それはいけない! と動いてしまいます。元々、幼い頃に同じようにダンジョンぶっ壊し隊によって故郷を消された、というのと、ファリンをライオスは助けたい、という想いで、他の想いもあるけど、動いている、というのが合わせ技になった格好です。そして、ダンジョンぶっ壊し隊の隊長と共に、狂乱の魔術師と一緒に逃げようとするファリンの落ちる穴へと。さて、この組の方もどうなるのか。ああ、隊長さんは転移魔術が使えるんで、一応大丈夫だろう、という予断はあります。が、その隊長さん、極度の方向音痴で、移動の為であるはずの転移魔術をその方向音痴感から攻撃に転用している、というこれはちょっと、やっちゃいましたね……。という予断もあり、カブルー助かるのかなあ、と予断を許されないのでありました。
 さておき。
 今回の、地味なんだけど一番デカい話がありまして、それはファリンがマルシルと一緒に何か食べようとしたのが幼少の寂しさの埋め合わせであった、というのではなく、ファリンを元に戻す方策が一応立ったことです。
 何故立ったのに一応なのかというと、センシの予測で、食べて他の生命の体の元となったら、もう元には戻らない、というのから発展して、ならファリン部分以外を食ってしまえば問題ないんじゃないか? という亜空の結論に至ったからです。
 先のレッドドラゴン、ファリンが成った部分以外の肉が戻ったけれど、それでも全部は戻らなかった。それは、わしたちが食べた分だ、という部分からの推理なんですが、そうなるとどうやってファリンは元に戻れたのか、という部分も混乱があります。まだレッドドラゴンの身になる前だったのか、それともレッドドラゴンが食うという摂理の外にあったのか。前者な気がするんですが、後者もありそうで、しかしどの道あれだけの質量を食う、というのは生半には出来ないぞ、となり、なら人に振る舞えばいい、まで到達した後の、その頭数に入れられたカブルー以下に走った背筋の悪寒で一気に噴きました。勝手に頭数に入れられているけど、そもそも魔物メシ受け入れてねえから! その辺をどうするか、というのも今後次第。そんなに皆食ってくれない気がしないでもなく、空論に終わりそうな雰囲気です。でも、この漫画だからなあ。
 そういう予断を再度持つ、そんな無茶さがある。うんうん、それもまた『ダンジョン飯』だね!
 とかなんとか。