感想 小川亮:四葉タト 『パリピ孔明』1巻

パリピ孔明(1) (ヤンマガKCスペシャル)
パリピ孔明(1) (ヤンマガKCスペシャル)

 大体の内容「異世界転生ならぬ異時代転生!」。というべきなのか、とにかく三国志の大軍師、蜀の諸葛亮孔明が現代に転生! そこで新たな、しかし平和な戦いへと向かっていく漫画。それが『パリピ孔明』なのです。
 諸葛亮孔明というのは色々、毀誉褒貶があるところもありますが、やはり大軍師という印象は拭えないというか、そうあれかしまであるかと思います。この漫画もその轍にきっちり乗りつつ、でも単には乗っていないぞ、と見せつけてきます。
 それがよく分かる場所を、二か所ピックアップすると、まず、色々あってとあるシンガーの軍師として世を渡ることにした孔明。まず手に職! といことでその人物の仕事場のオーナーと相対するんですが、オーナーが三国志マニア、というのでそこで問われる、馬謖についてのこと。
 何故馬謖に防衛を任せたのか、という問いに、孔明は後進が育ってなかった蜀において、新しい人材を起用する、というのは急務。魏延でもよいにはよいけれども、馬謖には策が、わざと通そうとして一気に攻めるものがあったようで、だから馬謖に防衛を任せた。という回答をします。そして、つと流れる涙。泣いて馬謖を斬る、それも思い出し涙で。
 これで完全にオーナーに気に入られてしまいます。その涙が、というよりは、ここまでがっつり三国志の話のディープな解釈、孔明からすると事実なんですが、持てるやつなら胡散臭くてもいい。というのです。確かに、誘因策という話は結構ディープで、成程、そういうのがあったかもしれないのか、と納得してしまいました。その話、どうあっても証明できそうにないけど、ありそうでもあると。
 さて、もう一つ大軍師たる部分を見せつけるのが、シンガーさんがいつもと違うハコで歌を、というところで、普通にやったら表舞台でやっている歌手に人をまるごと持ってかれる。となります。
 そこで、孔明が一つ策を講じます。それが、かの有名な石兵八陣! 同じような光景を連ならせることで、場所が分からなくなる、というやつでしたか。
 それを本来ならもっと広い所じゃないといけない、といいつつも、ハコでも可能なように改良。スモークやライティング、人やバーカウンターの配置を駆使して、入ったらトイレに辿り着いてしまい、戻れなくなる。そしてどこにいるか分からなくなり、そのフロアに滞留してしまうようになってしまうのです。まさにハコ版石兵八陣! やる!*1
 という二つからも分かると思いますが、単に大軍師諸葛亮孔明が現代に! というだけの漫画ではありません。その孔明の知略を、現代版にアップデートしつつ、三国志の話のディープな使い方をしているのです。ある意味では、杜康潤『孔明のヨメ。』とは時も場所も違うけど、その三国志に対する愛、偏執くらいまである、具合では引け劣らない。どっちもキワのようでいて、実際は三国志漫画の新たな王道、という雰囲気を醸し出している。そう思うのです。孔明が現世に転生の段階で新たな王道? そう、キワのキワの王道!
 さておき。
 孔明がやり手、というのはこの漫画では基本となっています。それは先のトピック以外の細かい所でも出ています。この手の話のお約束、文化度の違いで戸惑う、というのをわりとすぐに克服して全く動揺をしなくなりますし、バー仕事もあっという間にこなせるように、という部分でも色々と能力が高い。こういう事実で孔明の凄さを補強してきます。この辺の細かい仕事、大変良い。微に入り細を穿つってやつです。
 さて、この後もシンガーの人を盛り立てていく、んだろうけど、もしかして孔明以外にも転生したのがいるのかもしれない、と思うと、歌の世界で三国志していく、という謎漫画になるかもしれないと勝手に思ってむせることで、この項を終えたいと思います。

*1:そもそもシンガーさんの歌も良い点も当然あるんですが。