きらら少巻数終了作品の世界にようこそ 第一回

序文

 皆さんこんにちは。私です。
 今回は、まんがタイムきらら系漫画の少巻数終了マンガ、所謂2数乙、3巻乙漫画を個々別でレヴューしていくコーナーとなります。
 きららにおける少数巻乙、2巻あるいは3巻乙とは、週刊連載だとニュービーから中堅にかかるくらいの間合いです。大体2年から3年少しの分量なので、週刊漫画における打ち切りとはまた違うアトモスフィアがあります。きらら漫画における打ち切りとは1巻乙、あるいはゲストのみ、という感じですが、そこが主題ではないのでカカッとスルーします。
 ということで、少巻数終了マンガは、きららにおいては基本的に量産されるところのある地点です。その中から頭一つ抜けていくのが、長期連載作品、と言えるでしょう。
 しかし、そうはならなかった。そうはならなかったんだよロック。だからこの話はここでおしまいなんだ。というのが少巻数乙漫画なのです。ある意味登竜門であり、だからこそ高い壁なのです。
 さて、その少巻数乙漫画は面白くなかったのか、となりますが、それは当然さにあらず。あるいは長期連載漫画ではお出しできない性質の漫画などもあり、中々に魔境となっています。
 その魔境、踏み入らんや。
 ということで、これは今回の序文としたいと思います。
 それでは本文にいってみましょう。

第一回 FBC『スイーツどんぶり』

 記念すべき少巻数乙、それも2巻乙漫画紹介第一回は、これを書かないと自分が、この作品が好き過ぎて一歩も動けない……、という谷仮面状態になるので、FBC先生の一筆入魂し過ぎてそりゃ2巻乙だわという、ある意味ここで紹介するのが当然の作品、『スイーツどんぶり』について語っていきたいと思います。

そも、『スイーツどんぶり』とは?

 『スイーツどんぶり』(以下スイどん)はまんがタイムきららMAX誌の平成23年10月号にゲスト、平成24年2月号から二回ゲストからの連載だったよな? して、平成26年2月号で連載終了した漫画です。連載はだから2年。まさしく2巻乙の風上に置けます。
 内容としては不良界隈で名の知れた、ジャッカルこと柿崎さん(女)が、酒井さん(女)と栗原さん(女)で構成される料理研に入って料理をしていく話だといつから錯覚していた? という鏡花水月が発動するくらい、どんどんと展開が激しく爆走した漫画です。その書き口からすると迷走では? と思われるでしょうが、爆走です。わき目も振らぬ大爆走です。
 実際問題、最初は料理が致命的に下手で本当に致命の料理を作るという、禍った腕をしている柿崎さんが、料理をしていく、という風に見えていて、違う路線になる、んだけどしかしこれどこ行くんだろう? と少し迷走するのですが、その後徐々に展開が爆走を始めていきます。
 そのターニングポイントとなるのが謎の料理人豚原登場回。ここで、LIFEという組織名が出て来て、爆走の最初の一歩が踏み込まれます。
 そもそも豚原が非人道的な方法で料理人をこき使っている、という昭和はまだしも平成でそんなベタな悪役料理人おる!? なやつだったのですが、そいつを撃退し――これも平成の漫画でやるやつおる!? なやつですが――その口からLIFEの名前が出る、という流れで、LIFEと争っていくという漫画になります。
 もうこの段階でもう料理漫画としてわりと訳が分からないのですが、ここからもう一段上のギアに入るのが、LIFEのきっての料理評論家、笹田が登場する回です。この笹田が言い出すCP、クッキングポイントの導入により、この漫画の爆走の方向性が決定的に決定しました。
 そう、バカバトル漫画の方向に!
 ということで、スイどんはバカバトル漫画となるのです。

バカはバカだが大バカなのだ

 スイどんはバカバトル漫画です。しかし、ただのバカではありません。
 大バカです。バカ過ぎると言った方が正しいかもしれません。この辺のあわいは色々ありますが、まあ、とりあえず基本、頭がバカの、あるいはクルクルパーな漫画だと理解していただけると助かります。
 何故斯様にバカだと連呼するか、あるいはクルクルパーだと言うのかというと、回を重ねるごとに話の振れ幅がおかしくなっていきすぎるからです。CPが導入された途端にCP関係なくなったりする辺りでそれが如実に表れています。ちゃんと後であちこちで利用はされますが、導入の次の回から強引に倒す手をしてきて、CPとは……おごご……。とされるのです。
 じゃあなんで導入したんだよ! といいたくなるところですが、そんなクレームなど聞く暇はこの漫画にはありません。どんどん話はおかしな方向に突撃していき、クッキングバトルをしたよ、終わったけどね。とかやり始めるのはまだジャブで、そう、まだジャブで、突き進んでいく。話が進むにつれて酒井さんの生い立ちの話、から謎の罠部屋突破の展開を経て、最終的に柿崎さんが最終試験体でした。という方向まで突き進みます。
 もう既に前後の脈絡が無いに等しいんですが、事実こういう展開だったので本当にどうしようもないというか、バカ。それも大バカ。そういうしかないのです。

大爆走の果てに

 斯様、バカ過ぎる漫画としてスイどんはあるのですが、よく訓練されたきらら読者にはこの漫画が2巻乙に向けて走り出した、と精神修行回辺りで勘付きます。そこまでもだいぶ爆走が過ぎたのですが、その辺りから更にギアが入るのが分かったからです。酒井さんの出自の話とかも入ってきて、これは逝くな……。と理解させられました。
 しかし、その理解は足りなかった。酒井さんの出自が分かった次の回から、ギアが、入ったー! となります。三段階ぐらい上のギアに。七ツ星――幹部ってことですね。相当のCP持ちです――No.2が出てきた、それも学校に通天閣が! というので、もうこの漫画、引くに引けないな……! と理解させられました。
 そこから大雪崩式で突き進み始め、罠で味方が! というのを突き進んで、ラスボス戦へとなだれ込みます。勿論、皆大丈夫でした。というので、もうこの辺りからのスピード感というかダイナミズムというかプライマルというか、とにかく訳の分からないパワーだけで強引に突き進み続ける手加減無しのパワープレイが行われます。
 これを書くので久しぶりに再読しましたが、この終盤の加速度だけで突き進む力こそパワーっぷりは唯一無二です。これをきららで出来たという奇跡に満ち溢れていて、今見てもこの漫画すげえな、という畏怖の念すら覚えます。
 そうした爆走を、毎月待っていた。その事実を、この漫画を見るたびに思い出します。あれでどうするんだろう、という話のファイナルダイナミックアタックを毎月食らいつつ、最終回に備えたあの日々を。
 そして迎えた最終回は、しかしそこまでの爆走具合からすると、やや拍子抜けでした。
 いや、今再読するとわりと無茶苦茶なんですよ。酒井さんと柿崎さんの出自である明星計画のスピンオフ、プラネットの使者が! というので、わりとお前は何を言っているんだ。とミルコ・クロコップ顔なものなのではあります。
 ですが、そこに対して一旦閑を置いたがゆえに、この漫画のパワーがすっと途切れてしまった、という感じがありました。

テンポの問題

 このパワーの減少については、テンポが少しゆるくなっているのが、その感覚を得る理由でしょう。この漫画は爆走する漫画ですが、その爆走感を醸し出していたのが、抜群のテンポにあります。
 小気味いい、という言葉がありますが、この漫画の場合大気味いいというか、メチャクチャな話を、しかし読んでいる段階ではその飛び抜けたテンポで感じさせない所作で作られているのです。
 この凄まじいダイナミズムをテンポ一本で見せる、というのはそれなりにリスクもあります。それが最終回での、テンポが緩くなってしまってこちらの読むテンションも下がるという形で露呈した訳です。テンポ一本調子だったからこそ、そして如何に今まで前に倒れる力だけで進んできたか、というのが分かるところです。
 とはいえ、この終わり方も、この漫画の宿命という気もします。島本和彦先生が漫画の中で、どんな漫画でも面白くない回は必ずある。しかし、名作はその面白くない回が最終回なのだ! というネタをぶっぱしていました。
 その伝でいくと、この漫画が最終回が拍子抜けたように終わったのも、あるいはこの漫画が名作であることの証左なのかもしれません。抜群のテンポで前倒していくだけの力を入れ続けたがゆえに、大爆走の果てに最終回で倒れ切ってしまった、そういうタイプの闘士。
 それが『スイーツどんぶり』なのです。

そんなわけで

 お試し的にスイどんは面白いんやで! というのを、その爆走具合から書いてみました。今見ても、このパワーの出所が謎過ぎるのですが、再読すると、前へ前へという力は大変感じます。作品のメリハリというかハリしかないようなテンポの良さと、その前に傾斜する事だけによって進んでいたところはやっぱりあったなあ、と。
 それが最後に向けての大爆走につながり、そして最終回で力尽きた感じになった訳ですが、それでもあの無闇なパワーとテンポの味というのは、結構最近の漫画に足りないモノなのでは? とわりと錯乱したことを書いて、この項を閉じたいと思います。
 とりあえず、お試しなので、第二回があるかは、不透明、とは添え書きさせていただきます。

スイーツどんぶり (1) (まんがタイムKRコミックス)

スイーツどんぶり (2) (まんがタイムKRコミックス)

次の回はこちら

hanhans.hatenablog.com