ネタバレ?感想 木々津克久 『フランケン・ふらん Frantic』5巻

フランケン・ふらん Frantic 5 (チャンピオンREDコミックス)
フランケン・ふらん Frantic 5 (チャンピオンREDコミックス)

 大体の内容「案外メディカルホラーとなってきている!?」。実際、メディカルホラーというのがどういう類の話なのかというコンセンサスがまだ世の中にないので、これはメディカルホラーなんだよ! とキバヤシ断言していいのか不可思議な世界にある漫画。それが木々津克久フランケン・ふらん Frantic』なのです。
 それでも、メディカルホラーだ、という言説を出せるくらいには、今回の巻はメディカルでホラーでした。久宝さんの分裂する形質(昔ふらんに付与されてたやつ)がキーとなって犯人側からするとおのれの正気を完全に疑うやつとか、もっと医学的に解明できたかもしれないウィンディゴの話とか、荒野サバイバルからのその血が最後に仇なすものを撃ち取ったかのような話など、メディカルとホラーの結節線を探る回が多いのがこの巻の特徴と言えるかもしれません。とかく、そのタイプの話が多い。
 しかし、この漫画は『フランケン・ふらん』であり、作者は木々津克久先生です。その結節線を探る手管からしてかなり恐ろしい物を生み出します。
 それが人魚を作ってたけど、最終的に収斂進化で人魚じゃなくなってイカ娘でげそ!(ただし9割9分イカ)してしまった話の無茶苦茶さや、荒野サバイバルを医学的にきちりと考えるとそうなるよねーという話の最終的な位置の絵面の強烈さとか、後は描き下ろしのマスクを取る行動に欲情するように、というある意味現実に寄せたけど結末が全然現実に寄せてない過ぎるのも、この漫画でしかお出しできないものとなっております。
 この唯一無二という言葉が如何に恐ろしいか、誰もいないから好き放題進撃出来る場が生み出すものが如何にヤバいか、というのを体感する為には、この漫画以上の存在はない、と言って差し支えがない。この内容を正気にて――でなければここまで真に迫ることはありえない。エキゾチックな正気の代物です。――お出しする木々津克久先生が余りに偉大過ぎるし、これをやはり連載できるチャンピオンREDも偉大過ぎます。それくらいのイギョウが、この漫画の中には詰まっているのです。
 そういう、メディカルホラーの鉱脈もほじっているこの漫画ですが、やはり精神的ブラクラ、精神的グロは今回も健在です。
 よく言いますが、そもそも精神的グロとは何か。それは精神面に訴えかけるグロテクスです。物理的グロのように、モツとか脳とかが出る事はほぼなく、ただ精神にてきめんにグロテクスさを感じる、というものです。文脈でグロく感じると言うモノと言ってもいいでしょう。
 例えば先に上げた久宝さん無限増殖のせいで頭がいかれる殺人犯のとこも、最終的に数で押す作戦を取るふらんさんが、でも久宝さん分体が分裂したてで反撃できる能力がないせいで殺人犯無双みたいな訳の分からない映像になるのも精神的にグロいですし、その殺人犯が頭おかしくなるのが身にしみてわかるのもそういうタイプの精神的グロです。殺しても殺しても、久宝さんが出てくる、というので、そりゃ精神おかしくなるわ。と感得出来る。これが精神的グロと言っていいでしょう。端的に精神にくる、でいい気もしますが。
 常々、木々津克久先生は精神的グロのパイオニアというか、誰も掘らねえよそこ。というのをひたすら掘っているせいで、その所作が無印から更に洗練されてきています。ちょっと常の域を超えているとすらいえます。
 それが一番分かるのはこの巻ですと第29話『カリブから来た少年』。これについてはネタを割らない所作でいきます。本当に、木々津克久先生の精神的グロ力が極まった回なので、見て下さい! とシャクティ声がでてしまいます。それぐらいの価値がある回なのです。
 大体の内容は、移植手術用クローンとして育てられた子供たちが、その移植を、使われる事態を望むがゆえにとんでもない行動に出る、というのがおおまかな話です。
 ここの話の、なんともいえない、どういえばいいのか分からない、という精神的グロさは、木々津克久先生が更に一歩、精神的グロの世界を広くしたといって何ら問題がないものとなっています。
 究極的に、利他というのがどこまで許されるのか、みたいな話で、え? 利他って限界あるんだ? と思われるでしょうが、この漫画は利他の限界突破というのを描き出しており、誰も踏み込まない領域だからって踏み込んでいいのか!? という状態になっています。
 この辺の無茶さというのはほとんど「達人は、保護されているッッッ!!!」級です。そこは考えすぎるとやばいですよ! な場所なのです。
 それを誰も来ないがゆえに、そしてパイオニアゆえに掘り進めることに手加減がない。本当に木々津克久先生にはもうちょっとこう、手心というか……。って言いたくなります。つか、普通利他の限界地なんて見られると思わないですやん。
 なので、本格的にこの漫画はどこに行ってしまうのか、というのが怖くなってきました。昔の感想でもヤバいとは書いてましたが、まさかここまで元々抜けてた頭が更に頭一つ抜けるとは思わんですよ。木々津克久おっかねえ・・・、木々津克久信用できねえ!
 さておき。
 個人的に好きなのはガブリール先生話。ガブリールは基本雑なせいで命を狙われるんですが、その雑さが自身の生殖関係にもあって、というので無茶苦茶な話になってて好きです。そして生徒がその生殖関係で生まれた生き物に名前つけて飼ってた、というので殺さずふらんんとこに送った、というので、ガブリールがいい人というか、変に頓着するとこがあるなあ、というのが分かって良かったです。ハートフルですね? 相当数人死んでますが、まあ悪人だからええやろ。
 ということで、メディカルホラーとしてしっかりしつつ、ガブリールのいいとこでたり、精神的グロの新境地が見れるのが、『フランケン・ふらん Frantic』5巻なのです。整理してみるとマジ頭おかしいなこの漫画。