感想 kashmir 『ぱらのま』5巻

ぱらのま 5 (楽園コミックス)
ぱらのま 5 (楽園コミックス)

 大体の内容。「かわいい子は勝手に旅に出る」。娘さんがぶらっと小旅行に出る漫画も今回で5巻となりました。そんなにネタがあるかな? と1巻辺りで思っていたりしましたが、全然ネタは尽きない。今の時代なら2泊もすれば日本全国回れないでもない。そういう時代性がこの漫画にネタと言う栄養を送り続けているのです。ジンルイノエイチ!
 とかなんとか言ってないで、思ったことなどを。
 とりあえず、上記の通りいつかネタ切れするんじゃないか、とは常々思っていたんですよ。そうそうウロウロばかり出来ないだろうし、限界は来るのではと。
 しかし、これまた上記の通りその目論見は外れる形になりました。これなら、まだまだネタは全然出てくるな! 君は小説家になれるな! とせがさん台詞が発せられる、ネタの横溢度合いとなっています。
 なにせ初っ端から競艇場をぶらついてみよう、なので、大人の階段上り過ぎです。普通なら、あってもボートレースに興味が無ければ入らない場所に、カカッと目新しい、する娘さんの好奇心具合がいいです。それでいて、ここは居場所じゃないな、というのが、じっと同じところに留まっていられない癖だから、というのだからまた妙味。この競艇場回も、ボートレース見るだけじゃなく競艇場をウロウロすることでそういう癖なんだなあ、というのを感じさせてくれるのでうまいです。
 そのウロウロする、というのが一周回って混乱してくるのが、飛騨金山周辺の散策。隘路、悪路をめぐるうちに、謎の酩酊感に襲われるところでしょう。特に、呪いがとかそういうのではなく、人口で作り上げられた隘路をめぐるうちに、なにやら逆に神秘の感覚に怖気る、という感じでした。
 kashmir先生は背景美術に独特のセンスがある漫画家さんです。
 それが特にこの飛騨金山での娘さんがはわーってなっているとこの背景の描き込み具合でエグくでている。精密ではあるけど精緻ではない、けど人が作ってそれが更に経年劣化していっているのが如実に分かるというテクニック具合が冴えを見せすぎて、えらいとこだぞ……。ってなってしまいました。ちょっと行ってみたい。
 というか、あんなよくわからない怖気を漫画にする、って大変なことさらっとやるから、そこに痺れ(略)!
 さておき。
 そういう小旅行の跳ね具合もいいですが、偶には違う筋道も見せるぜ、へいへいへい。という回もまたよいです。高速バス回とか。時刻表回とか。
 高速バス回は、普段電車を使用する娘さんが、新宿バスタの完成したので行ってみた、からのぶらり勝沼への旅、というよいものです。
 この回ではいつものようにノープランで新宿バスタまできたけど、ここで予定のないやつ、あたしくらいじゃあないか? 他の人は目的がきっちりしてきているのでは? となって悦に浸り、その悦のままバスに乗りこむという、この漫画らしいシークエンスが目立ちます。
 最終的に、降りるバス停と駅との位置関係を理解してなかったせいでえらいめに遭うのですが、それもまたぶらり旅の醍醐味よ、ってするので、こういう旅行もしてみたいな、と思わせる魔性の何かがあります。
 そしてこの人なんで糊口を凌いでいるんだろう、といういつもの謎も出てきますが、それはまあ明かされないのもまたよしなので、スルーでいいでしょう。そういう処理も好きよ。
 時刻表回も白眉です。古本屋で昔の時刻表を見つけて、つい手に取ってしまった娘さん。それから、その昔の時刻表で分かることを色々確認して遊んでたりする、特に起伏はない回です。
 しかし、時刻表の面白みというのが分かっていると、それだけでも遊べるものだ、というのが如実に出ていて、自分事ながら昔旅に出る前に買った時刻表をにらめっこして旅程を立てたのを思い出しました。最初何書いてあるのかちんぷんかんぷんだったりしたけど、分かってくると猛烈に楽しいんですよ、あれは。
 今ではアプリとかで行程を入れれば自動で分かってしまうので、時刻表の息もそう長くないでしょうけれど、あの独特の時刻表を睨みつけて旅程を組むことが楽しかった方なら、わりとそうくるかー、なネタ回なのでオススメですよ! とか言いたくなります。
 さておき。
 ネタ切れが心配だったこの漫画ですが、むしろネタに詰まってきた時こそピンチだ! もとい、チャンスだ! なのだなあ、という感慨に浸れる。そういう味わい深い作品です。でも、流石に旅行ネタなので行く場所が遠くなる以外の選択肢があるのかしら? そうなるとこの漫画の為に旅をしまくりんぐで大変なのでは? と言う気もしますが、そこはやり始めたんだから、頑張って! と無謀な応援をしておきたいと思う、吉宗であった。
 とかなんとか書いて、今回は締め。