ネタバレ?感想 池上遼一:稲垣理一郎 『トリリオンゲーム』4巻

トリリオンゲーム(4) (ビッグコミックス)
トリリオンゲーム(4) (ビッグコミックス)

 大体の内容「作るぜ、稼げるゲーム!」。と言う方向性にはなりますが、そこに紆余曲折がてんこ盛り。それが『トリリオンゲーム』4巻なのです。
 今回は3巻で動いていたゴップロをいただきをしつつ、会社のトリリオンゲームでゲームを作る金はねえ! となってガクさんがへこたれます。しかし、こうなれば大ヒットスマホゲードラゴン娘のプロデューサーを掴めれば、ワンチャン? となり、その情報を得る為に敵対する予定のドラゴンバンクにハッキングを掛ける、という展開へ続いていきます。
 ガクさん、自分は凡夫だ、って思ってますが、意外ととんでもないやつなんですよね。ドラゴンバンクに勤めたかったから色々知っている。はいいんだけど、その情報が活きる前のまず侵入のとこで、以前にハルに見せられたドラゴンバンクのPCの画像などをきっちり覚えていて、そこから侵入の糸口を、というのでもう無茶言ってるよね? で困りました。ハルも無茶だけど、ガクさんも実際無茶なんですよね。よくそんな細かいとこ見てたなお前!?
 しかし、そのハッキングは、最終的には成立しませんでした。成功はしましたが、プロデューサーを知ることはできなかったのです。ここがガクさんがガクさんたる所以というか、翻ってハルが如何にヤバいのかが分かるところです。
 この情報を流したら、ドラゴンバンクに大打撃が、という情報を見て、でもそれを作っている人たちのことを考えちゃったんですね。トリリオンゲームでも作っている人たちと交流があるから、そこでついつい思い出しちゃったのです。
 この辺がガクさんが自分を凡夫だと思ってる理由ではあります。ハルみたいにむき出しの漆黒の意志というのがないから、その片鱗はあれど突き進めなかった。そこは明確な差だけど、美点でもある。そういうところがあるから、ハルもガクさんに一目置いているんだ、という気がします。
 さておき。
 実は今回の巻では、ハルがあんまり出てきません。今まで、1から3巻までではそこかしこに出ていたハルですが、4巻では出番が極端に少ない。どないしたん!? まであります。
 が、これについては、ちゃんと意味合いがある。ハルの影に隠れがちだったガクさんが、今まで特に反抗もしてこなかったハルに、明確に対抗しようとする、という展開だからです。
 つまり、ガクさんに焦点が合うし、捨て置かれているゲーム部門にも光を当てる形なので、そこに疎いハルは門外漢。なので、そこが分かるガクさんと後、凛々さんが主体になる、という格好になっているのです。
 それだと、ハルの存在感が薄れてしまうのでは? ハルあっての漫画だろ? と思われるでしょうが、そこのとこは実に上手いのがこの漫画です。
 というのも、いろんなところでハルがしたこと、例えば資金であった20億をゴップロ関係で使いきってしまっているとか、ガクさんが桐姫さんとデートというか情報交換――ハッキングの代価と言う感じの――でもどう接するかというのをハルの発言を人を介して聞いたりとか、会社に謎の巨大スクリーンがあるのはハルがぶち込んだんだとかで、そこかしこにハルの影響があり、よってハルがいなくてもその存在感が薄れない、という細かいテクニックが使われています。
 そしてこの巻最後で、捨て駒扱いだったゲーム部門もきっちり作る、1兆円稼ぐ! というハルの覚悟によって、最終的にハルの存在感が一気に大返ししてくる、という見事過ぎる仕事を魅せてくれます。これをハルの存在感があるけど出てはこなかった4巻最後にきっちり仕込めるんだから、ネーム力が高過ぎるとしか言いようがありません。巻最後に出るから意味がある、というのをちゃんと巻最後に持ってこれるって意外と尋常じゃないですからね。そういう意味では、4巻の完成度はちょっと異常です。漫画の粋と言った風情ですよ。
 さておき。
 ゲーム作りの話も、この巻後半で行われます。敏腕金満男と熱いが実績のない男が組み合って、微妙に仲悪そうなんだけどケミストリーでゲームが出来ていく、というとこが大変好きです。そういうの好物なんですよ。バディものなとこが、ゲームで起きるとなんか嬉しい。お互いが歩み寄るとは違う、ぶつかり合う形から生まれるモノ! いいじゃないですか。こういうのでいいんだこういうので。
 ということで、ハルの出番がないけど存在感は常にするし、なんなら最後でハルの存在感大返しするよ? な4巻でした。実際漫画が上手いとはこういうものだなあ、とか思ったりしつつ、この項を閉じたいと思います。