ネタバレ?感想 ムクロメ 『SAN値直葬!闇バイト』1巻

SAN値直葬!闇バイト 1巻 (まんがタイムKRコミックス)
SAN値直葬!闇バイト 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「きらら×クトゥルフ神話!」。黒乃あかりさんは極貧高校生。なのでバイトを、となったらいきなりあったよ高収入バイト! ということでそのバイトをきっかけに、クトゥルフの世界に紛れ込んでいくのが、『SAN値直葬!闇バイト』なのです。
 きらら漫画というのは基本として女の子がわちゃわちゃする、というのがあり、そこにワンアクセントを加える、一項足すことでその作品の個性を出すようになっています。わかりやすい例でいうと、かきふらいけいおん!』の女の子×バンドです。とはいえその段階、二項パターンは今は極まってきた感があり、なのではまじあき『ぼっち・ざ・ろっく』が女の子×陰キャ×バンドという感じで女の子に一項、の更にもう一項の追加も考えられる時代になっています。
 そんな三項というのがメインになりつつある中で、まだ二項の手管は残されている! といわんばかりに女の子×コズミックホラーという組み合わせで鳴り物入りにゲスト3回が始まったら、そのままの勢いで連載になっていたくらいのインパクトがあるのがこの『SAN値直葬!闇バイト』なのです。
 この漫画はクトゥルフものですが、話の雰囲気は陽性が強い場合がほとんどです。じめりとした不安要素、というのがある時もありますし、そういう場面もあるんですが、とにかく先述のあかりさんがパワフルな為、このパワフルだけでこの漫画が変にグログロとしないようになっている、という安全弁みたいな存在になっています。
 更にあかりさんについて秀逸なのが、コズミックホラー物では定番の所謂SAN値があかりさんは非常に高いのと、どうにもあかりさんが非常に豪運を持っていることの二つ。これがこの作品を普通のクトゥルフものを一線を画す形にしています。
 SAN値が高い件については、一緒にバイトしているこよちゃんさんがたびたびSAN値が削られて失神または死亡してたりするんですが、あかりさんはそういう目にあっても死亡することがそんなにない、というので明らかに情人離れしているのが分かります。
 この巻の中盤辺りで死んだ探究者の魂と入れ替わってその探究者のしゃれこうべに入ってしまう、というのがあるんですが、こよちゃんさんはひたすらふえええ、という状態になるのに対し、あかりさんはそのしゃれこうべでも元気よくやっていたので、マジで精神構造からして強者の風格という感じです。
 また、ショゴスを服の上から服の擬態を、というのを最初は嫌がっていたものの、途中から慣れてくるというのでやはり格が違います。普通にSAN値減る場面なのに、全くノーダメではなかったですが、正気は保っていたので、この子どんだけやねん、という案件でした。
 運については強運ではなく豪運と書いたように、通常の運の良さとは異質の運の良さ、悪運とも違うのです。最初にバイト先の店長と会わなければ、学校にクトゥルフの人達が闊歩しているのもあっていつかそういうのに遭遇、そして……。もありえたことを思うと、運が太い、んですがそのせいでだいぶ危険な目に遭いつつも潜り抜けていく、というタイプです。それに周りが結構被害を、特にこよちゃんと友達のうらんちゃんが、受けるので、これを表すには内藤泰弘血界戦線』のライブラの首魁、豪運のエイブラムスの意味での、自分に被害はないが周りは大惨事になるという豪運が適切かと思います。
 さておき。
 あかりさんが豪運で明るい性格でがめつい、というのもあり、悲壮感を持つとこが少ないので、この漫画の怖い成分は周りの人が主に受ける、というのは前述です。そこでのホラー要素としての出来栄えは見事だったりする辺りがこの漫画がきらら二項の中で最も灰汁が強く、またきらら三項がメジャーになりつつある中で存在感を発揮している理由でしょう。
 特にうらんさんがあかりさんの件に絡んでしまうことになる回の寸勁の如く突拍子もなく鋭くホラーで突いてきた時は、ひゅっとなりました。ここのホラー入りはマジでいいので、そこだけを目当てに読んで、これきららでやってのかよ!? ってなっていただきたいところです。
 ちなみに、きららだから死人がでない、ということはなく、あかりさんも2話目で身代わりがなければ死んでいた局面があったり、前述の探究者との入れ替わりが、こよちゃんがSAN値チェックに失敗してショック死してたからというのもします。ギャグっぽく且つナチュラルに死ぬので、するっと無視してしまいがちですが、その死ぬこともある、を脳裏に認識させられているので、ホラー展開になってちゃんと心胆寒からしめるというか、いつやってくるかわからねえぞ? させられます。
 そんなきららとコズミックホラーという食い合わせが良くなさそうな題材を、しかしきっちり作品にまとめ上げているという、中々稀有な漫画。それが『SAN値直葬!闇バイト』なのです。