住吉九『ハイパーインフレーション』がドレッドノート級の傑作になって件についてネタバレ尽くしで書く。

ハイパーインフレーション 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)
ハイパーインフレーション 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

先に言っておく

 ネタバレ全開だ!
 ということで、こっからはネタバレを今更気にしなくてもいいかもだけど、単行本勢でまだ6巻読んでない人もいるだろう。と、おまえにもかぞくがいるだろう。調で配慮をして、とにかくネタバレして語りたいという気持ちが強すぎるというか、何か書くとネタバレにしかならなかったのでもう最初からネタバレ全開でいいや! ってなったので、ネタバレ全開でやっていきます。
 これだけネタバレって書いときゃ十分だろ。

前に書いたネタバレ全開はこちら

hanhans.hatenablog.com

どうだったのよ、6巻完結巻

 もう、最高。最ッ高だぜ! チームサティスファクションの復活だッ!!(カーン) くらいには最高でした。5巻から続く城攻防戦が決着したのだけでもとんでもなかったのに、更に最終シークエンスに突入してからテンションが下がることを知らず、むしろせりあがっていったのが印象的です。
 城攻防戦もレジャット側に軍配が上がって、既に準備が出来ていた贋札は廃棄。全く打つ手がなくなった、かに見えた。が、贋札作りの精神は死滅していなかった! という流れで熱い熱い。
 そのままの流れでハルさんを助けるのと新たな贋札の制作の為に、ハルさんが移されたゼニルストン自治領に!
 からの最終シークエンスが度肝を抜き続ける展開で、レジャットとの最終戦で基底部分をぐらぐらしまくってくるとこ最高でした。手玉にとられているでくまー!
 というか、ハイパーインフレーションからハイパーインフレーションしていくのマジでアガりました。切ない題名回収からの、更にもう一段の題名回収! あーもう無茶苦茶だよ。
 という感じで、ネタバレ度薄めでつらつらしましたが、ちゃんとネタバレをキャラの動きの感想などでやっていきましょう。

ルークについて

 色々言いたいことはありますが、ちゃんとハッピーエンドになって本気感謝(マジあざっす)。ルークの能力的に、金を生み出せたら後々が色々大変、金に困って作ってしまうのでは、というのが、レジャット側に番号がバレたことによって普通には使えないという形になったのと、能力を使わなければいずれ生殖能力が戻ると示唆されたので、住吉九センセイー! とフジキド=ケンジ顔でした。ありがてえ……。ルークに明るい未来があるのありがてえ……。もっと後ろ暗い話に決着しなくてありがてえ……。レジャットに番号握られたのが逆にルークに後ろ暗いエンディングにならない方向性を与えた、と思うと怪我の功名のでかいやつでした。
 そもそも、あの偽札作戦が成功していたら、ルークは一生追われる立場だったかもしれない、とも思うのです。帝国の破滅とトレードオフなので、狙われ続ける可能性がある。それが一旦とん挫し、その上で真バージョンとして新生して、その結果帝国の経済が回復する形になってそれが交渉材料になる。それゆえにルークが追われることはなくなった、というので、そこまで考えが至るルークの成長が凄まじいことになっております。追われないどころか、帝国に良いインフレを与えて、というので前の偽札作戦の帝国を破滅させるだけだった可能性を一転しているのも卓越しております。
 このルークの成長があるからこそ、バッドエンドというか、追われ続けるようなエンドは見たくなかったので、こうやって決着したのが本気感謝です。このエンドであっただけで、一生どこへでも、ついていきます! とユリア声になります。フハハハハ! 聞いたかケンシロウ! 女の心変わりは恐ろしいのー!
 さておき。
 この漫画の最高潮、最後のレジャットとの舌戦の中で、更にもう一段、突如湧いたやばいやつとの読みあいも同時にやってた時は、本当に成長したな、ルークってなりました。350億ベルクを、もう一段作っていたけど、それを湧いた奴にやるのではなく帝国の交渉に使うつもりだった、というのがマジで成長です。その湧いた奴にやるのは完全過ぎる偽札、というのでマジその理屈はあった! ってなってビビりました。同時に350億ベルクを要求されるページの、どうするんだルーク! というのがその後きっちり回答されてもう堪らぬ。凄い男だ……。この成長、主人公だね。

ルークが変な技能を覚えた件について

 ルークの能力、今まで偽札出すだけだったのが、その排出量を5巻までで飛躍的に増やしたことにより、その排出力を攻撃力に転じることができるようになった辺りは最初戦慄しましたが、落ち着いたら笑いました。そりゃあれだけ勢いよく出れば武器にもなるわ! って笑いどころなんだけど、その最初は結構異形のそれだったので、慄く訳ですよ。タイミング的にレジャットが逆にルークに追われるという攻守逆転で起きた事態だったので、そうもなろう。いきなり無力な子供だと思っていたのが化け物に転じる! 怖い怖い!
 そこ一発ネタかと思ったら、その後折々でルークが自分の武として使ってて、有効活用にも程がある! で笑いましたが、今までもちゃんと武、というか暴がないと交渉の場が作れない、というのは散々やってきたので、それをルーク一人で出来るようになった、というのはかなりこの漫画が煮詰まった結果だなあ、と思いました。思ってたんと方向性ががっつり違いましたが。その理屈は分かるんだけど、その暴何か違わん?!

ダウーについて

 城攻防戦でタヒぬんじゃないかと思ってたダウ―ですが、なんとかそこを生き延び、後はそんなに活躍がなかった印象です。パーフェクトプレートのフル武装がデフォになってたりしましたが、ルークが暴を使えるようになったのでその分割を食った格好です。時折暴はするんだけど、ルークのが見た目の印象があれ過ぎて忘れがちです。
 でも、ルークが好きなことについて、ルークもダウーのこと好きだよ! とか言い出してたので、あらー。案件でした。その後で、ルークの生殖能力が戻る可能性があると示唆されたことで、なんかすごくいいものを魅せてくれた感じになりました。それを知らせにルークのもとに走るダウーが、なんかすごくいい。いい話で終わった、って感じさせてくれました。
 後、パーフェクトプレート来てない時は基本おめかししているのもいいですね。やっぱり可愛いものスキーになったんだなあ、と。それで更にビオラさんと再会して抱き着いたりしてたので、ビオラさんも可愛いものの部類に入るのな、ってなりました。それは新鮮ですわ! あの人、綺麗系に属すると思ってましたらからね。綺麗も可愛いってことなのかもですが。

グレシャムについて

 完全にこの話の源流というか、こいつのせいで全てが始まったんですが、なんのかんの最後まで生き延びやがりましたね。城攻防戦ではあまりに超速で裏切るので、どっちが今優勢なのかの旗印になってた辺り、本当にこいつ……。ですが、その後も基本儲かる方についていくというムーブが揺るがなかったのも流石でした。こうでなくてはグレシャムじゃない。
 で、最終的にはいい位置で金儲け出来た、けどフラペコにしてやられた、というのがとてもいいオチになっていました。してやられたことに気づく前にフラペコに激励というか、お前が一番だったぞ。って言ってたので、してやられたのもそこも含めてしまうんだろうなあ、とか思ったりもしましたが。
 でも、やっぱりやばいやつなのは変わらなかった。裏商人たちを破滅させたとこで、仲間だろ!? って言われて仲間? って顔になるコマの怖さが天元突破してました。こいつこういうとこあるから怖えんだよ!
 あと、偽札作戦が失敗して、借金が残ってしまった、というのに借金分も稼がないとな! とか言いだした時もかなり恐れおののきました。本気でこいつ金、というか金を稼ぐことに特化した人間性なんだな、って理解が倍増しました。借金出来てしまった、ではなくマイナス以上稼ぐ必要が出来た! だから本当にメンタルが異常です。でも、だからこそのグレシャムなんだよなあ、とは。
 そういう意味では、最後までグレシャムが解釈違いになることはなかった。つまりキャラクターとしての芯が一貫していたということでしょう。とある精神性を一貫させるととんでもない化け物が生まれる、というのをしっかり目に焼き付けた格好です。
 というか、あまりに稀代のキャラクターになってしまった感があって、グレシャムの過去話のスピンオフとかあったら余裕で喝采するぞ! なのでそういう方向性もお待ちしております。

フラペコについて

 前のネタバレで語った時にいきなり未来の話してタヒなないでくれよ!? ってなってましたが、未来の話をし出したのがグレシャムとの別れにあたって、だったので、そのタイミングがいいッ! そのタイミングがベストッ!! ってなったので住吉九先生ありがとうございます。そういうくらい途中タヒなないだろうな、って思ってましたからね……。
 最終巻もいい解説役だし驚き役だし情の男だしでフラペコ頑張ってましたね。城攻防戦終了時のルークの落胆に、全てをなくした、というので昔の自分を思い出し、言葉はしないけどただ寄り添って慰める、ってのを、若かりし頃の姿を幻視させつつやってたので、マジ情の男だな、ってなります。
 そして一人の商人として旅立つ時、グレシャムに一番だったぞ。って言われてその場では耐えたけど船の上でギャン泣きしてたのも、情の男として最後の仕事って感じでした。それだけ泣いておきながらグレシャムの稼ぎの一部を持ち逃げしているから、マジでこいつ……。とはなりますが。このグレシャムの遺伝子というか、メンタルがきっちり受け継がれているのはいいのか悪いのか。それはどっちかは分からないですが、あんま受け継いで良いメンタルでもなかったのでは? とは思います。実際、この漫画の引き金だったしね……。

レジャットについて

 5巻終盤でその出自から己がないという話をされてぶち切れ金剛だったレジャットですが、6巻前半でそれがこの男、歪んでいる! という段階に発露しちゃったりしていました。城攻防戦はある種極限状態だったので、それゆえに奥底にあるそれが浮かんじゃってましたが、6巻中盤から最後まで、ちゃんと紳士の面は維持していたし、なんなら己がない、という部分をぐっと飲みこんで仕事にまい進する様を6巻最終盤で見せたりもしていたので、なんのかんの出来る男なんだよなあ、というのを感じさせてくれました。
 船編からこっちずっとルークに対する敵役だったレジャットを、しかし最後には飲み込んでしまったルークのでかさのせいで忘れられがちですが、なんのかんの出来るこいつがいたからこそ、偽札作戦は真になることになったし、それによってカブール人は助かる道が生まれた訳で、この辺がこの漫画の一筋縄ではいかないとこだったなあ、と。レジャットを単純な敵役にしないというか。
 にしても、本当に己がないと言われたのを、信じてくれる部下がいるというので乗り越えるとことか、この漫画でなかったらなさそうな部分なので、この漫画の稀有な面がレジャットの存在だよな、とか。やはり強い敵役がいないと映えないとこはあるし、それが特に知能面と技能面である、というのがこの漫画を面白いものにしてたんだなあ。レジャット視点をきっちり見れば、この漫画のもう一つの面も見える、という作りだったというか。グレシャムともまた違う、もう一人の主役でした。

ヨゼンとコレットについて

 ラブな話は結局なかった二人ですが、城攻防戦を経て厚い信頼で結ばれた形にはなっていて、そういうの、ええぞお! という顔になりました。ヨゼンがお前が一番強いから勝率を上げるにはお前に頼るんだ! とか言って熱いし、コレットも極限の状況で必要なのは銃ではない、と投げられた爆弾に銃身を投げて対応して、というので、二人の矜持が完成に至ったのが城攻防戦だったなと。
 その後はほぼレジャットのおつきだったけど、相手の行動を考えて行動する、というのはレジャットに一日の長があるし、どうしても荒事向きだからそうはなるよね、という感じでした。
 そのレジャットにも、城攻防戦でいいとこで出てきたのでよくやった! 流石俺の剣と銃! とか言ってたからやっぱりここで更に信頼が持たれたんだろうなあ、とか。その後本当に出番がなかったけども。コレットさんがライフル構えるとこはやたらかっこよかったですけど、それ以外あまり関係出来なかったのは、まあしょうがないか。

ビオラさんと贋作殺しについて

 この二人が最終的にホットなライバル関係というか、新札のデザインを取るのは俺だ! してたのが、なんというかこの漫画らしい。ただこのデザインを勝ち取れたら、というかむしろ相手に勝てたらそれでいいから! という妄執が凄くて、でもこの二人の関係性ではそうなるよな、という感覚もあって、いいオチになっていたと。
 しかし、ビオラさんとかが加入した頃は、まさか番号違いの偽札の製造という方向にまで振れるとは思ってなかったですよ。それを視野に入れていたと考えると、そこで「ほう、経験が生きたな」するつもりでビオラさんの話盛ったんだな、と理解可能しました。それで更に今までの偽札での攻防が生きてくる、というので、周到とはまさにこのことだな、と。実際、ルークがハルさんを助ける為と見せて帝国を脅す手段としてもう350億作ってた、という周到さだから、そこまで考えて仕込んでたんだなあ。

ハルについて

 この漫画の最重要ポジションでありつつ、しかしその活躍が全くなかったという、ある意味でとんでもないキャラクターなのがハルです。本人はカブール人の統率を取っていただけなんだけど、それが最終局面にきて綺麗に関係してくる。統率のとれたカブール人が必要になる、というので、いつかこういう時の為に、という動きをしていたんだろうなあ、と推察はさせても、実際に漫画としてその部分はほぼ語られていない。あるいは、ハルはルークが偽札の王になると知っていたのか? まで考えられるとこはあって、最後にそういう謎を置いてくる仕草だったと感じました。
 どこまで分かっていたのか。あるいは単に偶然なのか。そこも、この漫画の周到さを考えると考えちゃいますね。

最後に

 この話が描きたかった。というのは漫画家にあってはよくある話ですが、それがちゃんと描ける、というのは意外と成功例は多くない。成功も失敗も、色々ある。その玉石混交の中で、これだけの傑作に結実させてきたのは真実稀有であります。6巻での、どっちに軍配が上がるか? というアップダウンとか、最高でしたからね……。これだけのものが描ける漫画家さんがいる、というだけで、日本の漫画文化有難し。そう思う一作でした。というか、アニメ化があったらマジで応援したいですよ。2クール程度あれば綺麗に決着出来るだろうし、いいのでは?
 とかなんとか、妄想を書いて今回はここまで。したらな!